ジェンダー史シンポジウム


都合で記事が遅くなったが、先週の土曜日は学術会議のジェンダー史シンポで報告。ジェンダー史を、より大きな歴史認識や歴史教育の変革のなかにどう位置づけるかがテーマ。

一昨年末のシンポが、(1)ジェンダー史の教え方が不十分であることのみを論ずる、(2)報告者は全員女性、(3)アジア史の報告ゼロ、といった点で「型通り」というか、私の立場から見ればまったく「旧弊な」ものだったのに対し、今回は(1)歴史全体への位置づけを扱う、(2)司会2人中1人、報告者4人中2人、コメント3人中2人が男性、(3)西欧・アメリカに関しては報告もコメントもゼロ、という点で対照的だった。

私の報告は毎度おなじみの、人材養成や授業・研究のやり方を変えること、ジェンダー史の側から歴史全体を見る/語る必要、東アジア中・近世史に位置づけるべきジェンダーをめぐる諸トピックの提示など。質疑も含め、「専門家とそれ以外とのジェンダー理解の巨大すぎる較差」を縮める、要するに「普通の研究者にジェンダー史をある程度まとまって理解させる」ことの緊要性を強調した。

いずれにせよジェンダーは(ほかのたいていの領域と同じく)生かじりの私には、長野ひろ子さん、成田竜一さん、小浜正子さんの3報告はじめ、すべてが勉強になった。阪大の歴史教育研究会でそのまま紹介したい内容が多かった(来年度の1学期はジェンダー史を集中して取り上げる予定である)。

成田竜一さんが討論で、私が提起した「正規戦で正面から全体史を書き換えようとする方法」に対し、それでは新しい権力的な正史を作ることに回収される(荷担する)ことになるので、「ゲリラ戦」に徹するべきだと述べられたこと――拙著『わかる歴史・面白い歴史・役に立つ歴史』へのUPでの書評にも書いておられた――も、前後の雑談などで多くのメンバーが「グローバルヒストリー(経済史)」への疑義を述べられたこととあわせて、課題が明瞭になったという意味でよかったのだと思う。

私自身が、これまでのグローバルヒストリーや広域経済史がジェンダーの視点を欠いてきたことには批判的である。「客観的な歴史」がありえず、われわれが歴史を書いたとたんにそこに政治性が生じることも(ジェンダー史そのものの浅い理解と同じ程度には)理解しているつもりだ。また、日本史の成田さんが「正史を書く」ことの危険性にこだわるのもよくわかる。

ただ私は、「言語論的転回」と「ゲリラ戦」が万能だとは思わない。現実に、放っておいても生み出される権力的な「正史」、現実に世界の人々を縛っている構造的権力とその矛盾、それらの「全体像」を、必要な場合に必要な人に「見えるように」しておくためには、こちらが(危険を承知の上で)「全体」を見て、書かねばならないのではないか。危険を言い立ててそれを避けるのは、むしろ「逃げ」ではないか? それが私の考えである。

なお、シンポ後の飲み会で成田さんと話して気付いたが、もしかしたらジェンダー史や民衆運動史の皆さんも、グローバルヒストリーといえば「大きな話だけ」と思っておられるのかもしれない。これは国民国家より大きな対象を扱う人間すべてが貼られるレッテルだが、必ずしも正しくない。かつて東南アジア地域史/海域史が一つずつの国家の歴史を超えて勃興したころ、われわれは「特定の小さな地域/国家の歴史を実証的に研究していない人間がこれを論じても信用されないぞ」と戒められたものである。ローカルな視点をしっかりもった人間がグローバルな議論をするから意味がある(秋田茂氏の言い方を借りれば、グローバル-リージョナル-ナショナル-ローカルの各視点の往復)。この点でグローバルヒストリーは、「世界」を論じようとした今までの歴史学の諸潮流とさほど違いがない。違いは、「はじめに国家ありき」「はじめに地域ありき」などと考えないことである。

こういう問題が議論できたし、あとの懇親会の中華料理もとてもおいしかったし(しかも六本木でこの値段?? という安さ)、収穫の多い会だった。私のようなエイリアンに報告させていただいた姫岡先生はじめジェンダー史部会の皆さんに感謝。

思わずつぎつぎ撮ってしまった料理の写真を、何枚か紹介させていただこう。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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