沖縄戦とアジア太平洋戦争

昨日は「沖縄戦」で組織的戦闘が終わった日。
「市民のための世界史」の講義がちょうど第二次世界大戦にさしかかるところだったので、最初に沖縄の話をした(そのあと思うように講義が進まず、本論が日本の敗戦までいかなかったのが間抜けだったが)。

毎年話すのだが、アジア太平洋戦争が(1)帝国主義国同士(先発帝国主義と後発帝国主義)の戦い、(2)民主主義と全体主義(ファシズム)の戦い、(3)帝国主義と植民地・従属国の民族解放運動の戦い」という三重の性格をもっていたことが、教育現場でクリヤーに教えられていない。それは、歴史認識をめぐる国内・国外両方の水掛け論を解消できない一因になっている。
 *水掛け論というのは、論争の内容が「どっちもどっち」だという意味ではない。論争のやり方がまずいため   に、正当な観点に立つ側が、相手の愚劣な意見をいつまでも粉砕できない点を言っている。

とくに(3)がきわめて表面的・観念的にしか理解・教育されていない点--それは、高校の先生に再三話している、植民地支配の実態が表面的・観念的にしか理解されていない問題と、表裏一体である--を、東洋史および地域研究の立場からは問題にせざるをえない。

その点で、今週見た2つのものを、直接の関係がないにもかかわらず、きびしく批判しておきたい(今までにも何度も話したり書いたことがらなのだが、無名の私の発言など当事者には知られていないだろうから、しつこく書く)。
1.ある学術誌の広告を見ると、「史実 中世仏教」という新刊書が出たらしい。これはいったいどこの国のことを書いた本だろうか。もちろん日本のことなのだが、中世仏教は日本だけにしか存在しなかっただろうか。
私が編集者だったら、「史実 中世日本仏教」というタイトルでなければ出版を認めない。
百歩譲って「日本史専門の出版社の本」ならよいのかもれないが、この出版社は「韓国の民間信仰」という本も並べて広告している(著者は韓国人のようだ)。そういう場所で、「ここは日本だから、中世仏教といえば日本のそれに決まっている」という発想によるネーミングを平気でする人たちに、どうして「つくる会」版の教科書を有効に批判することができるのか、私には理解できない。

2.CSCDの授業で歴史上のさまざまな国家の形態について発表した院生が、都市国家-封建制-絶対王制-国民国家-様々な「国家」へ、という模式図をベースにプレゼンをした。アジアの専制国家はひとことも出てこない。発表したご本人(歴史学専門ではない)には不運だったが、桃木教授の前でそれは、「読売ジャイアンツ万歳」を叫ぶのと大差ない「挑発行為」である。
 ただそれは、東洋史学やアジア研究の外側では、今でも当たり前の事態である。彼女が読んだ社会思想史の概説には、ヨーロッパの国家形態の発展だけが書いてあったのだろう。阪大生協の書籍部では、阪大出版会のコーナーで私の本と並べて造船の世界史の本が置いてあるが、前近代の部分は古代地中海や中世北欧の船が出てくるだけで、ダウ船やジャンクは影も形もない。ヨーロッパ人がそういう国家発展史やそういう造船技術史の本を書いてもしかたないかもしれない。だが日本人がそういう「世界史」を内面化し再生産するのを見過ごすことは、私はどうしてもできない。そういう思考様式では、アジア太平洋戦争の(3)の性格--帝国主義側、民族解放運動側の両方が矛盾に満ちている複雑な関係--を理解することなど望めないからである。

現在の日本では、「自分が差別されている」と感じる女性は少ないそうだ。では男女平等か。そんなことはない。
現在の日本のプロ野球ファンは、「セとパの構造的不平等」を感じることは少ないようだ。では本当に平等になったか。そうではない。
現在の日本では同様に、「日本一国主義(日本特殊論)」も「西洋崇拝」も、以前ほどあからさまではなくなった。だが日本以外のアジアや非欧米世界を本当に平等に扱っているわけでもなんでもない。
 *韓国や中国も「自国に関する一国主義」「アジア軽視」という同様の欠点をもつ。だが日本よりダイナミック  な克服の努力も見られる。

こんなことでは、日本側で歴史認識をめぐる対立の緩和や相互理解を推進することなど、望むべくもない。


今日も朝からうれしいこととがっかりすることの両方が複数あり、気分が揺れた一日だった。
焦るまいと思うものの、年を取ると気が短くなっていけない。

ダルビッシュの完投を見たかったが、中田翔の決勝打がばっちり見られたのでまあよし。
パの人気のためには、ダルが投げて中田が打つという組み合わせを3年間ぐらい見られるといいのだが、ダルがメジャーに行くのをあと2年待ってもらうというわけにもいかないんだろうな。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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