Wikipediaのレベル

自分の専門に関連する項目を見るとたいてい腹が立つが、そうでない項目は便利なので思わず利用してしまうものである。

偶然「仏哲」「ベトナムのカトリック」などの項目を見たところ、ずいぶんひどい内容が書いてある。

前者は奈良時代に渡来した「林邑(中部ベトナムのチャンパー)の僧」で、現在も雅楽の演目として残っている「林邑楽」を伝えたとされる人だが、項目を書いたのはベトナム屋さんらしく、仏哲にわざわざ現代ベトナム語の読み方を併記しているところが爆笑ものだ(ベトナムから来たとしてもキン族<ベト人>じゃないでしょうが)。
ついでにいえば、仏哲は実在かどうか疑う説もあり、また仏哲が出身はインドである可能性、林邑楽と総称される楽曲群がインドや西域(中央アジア)・中国の楽舞の寄せ集めである可能性も否定できない。林邑楽というくくりは、「林邑から来た仏哲」が教えたものがまとめて、平安時代になってから「林邑八楽」と呼ばれたものらしいのである(荻美津夫「林邑楽考」『古代文化』34-8、1982年)。

後者の項目で、「共産主義政権となった現在では、公式には宗教は否定されているが、それでも教会の活動は続けられている」というのは、通俗的理解かもしれないが、「ベトナム祖国戦線」について調べれば、間違いだとわかる。
共産党と政府に協力する宗教は、立派に存在が認められている。共産主義の理論について言えば、旧ソ連でもどこでも、否定しているのは「宗教が人間社会の真理を示すというイデオロギー」や「布教の自由」であって、「信教の自由」そのものは否定していない。共産主義を批判する立場にとって、このように全否定していないものを批判するのは、実は簡単ではない。

このレベルのことを知らない人-「専門家」と呼ぶわけにはいかない-が(むしろそういう人の方が?)ホイホイ書けるWikipediaという仕組みには、やはり疑問が湧く。

ここから先はいつもの話になる。そんなに問題があるなら、Wikipediaの記載を自分で直せばいいじゃないか?
きりがない。私は忙しい。やってほしかったら、ベトナム専門家の大学教員ポストを倍に増やしてくれ。
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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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