「歴史学のフロンティア」講義への質問

今週は木3に「歴史学のフロンティア」、金1に「平和の探求」と1回だけののリレー講義の担当回が回ってきて、ちょっと忙しかった。1回だけというのはどうも苦手で、今回もあまりうまく話がまとまらなかった。

「歴史学のフロンティア」は、外大との統合前に両大学の共同開講科目としてスタートしたもので、当時は担当者もほぼ半々、会場も両大学をそれぞれ2週間ごとに使って実施していた。毎年少しづつ担当者が変わってきたが、秋田さんと私など数名は一貫して担当している。現在は文学研究科と国際公共政策研究科の共同開講科目という形式になっており、ほかに人間科学研究科、言語文化研究科(言語社会専攻)などの教員も参加している。大学院の入門講義という性格でスタートしたが、昨年から学部生も受講できるようにした。ただし「内容は大学院レベルなので、大学院志望の学生に限る」と釘を刺してある。今学期の受講生は博士前期課程(修士課程)が17名、学部生が17名と半々である。

今期は主要メンバーによる出版『グローバルヒストリーと帝国』(大阪大学出版会)が出たところなので、これに原稿を書いた教員はそれを材料に話をすることになっていて、私も「中世大越(ベトナム)の農村社会に関する比較史的検討」という題で講義をした。

といっても、受講生はその章(これに書いてない教員は別の参考文献)を読んでくることになっているので、テキストの解説をしてもしかたがない。私は三題噺で(1)グローバルヒストリーでなぜ中世の中規模国家を取り上げるか、(2)グローバルヒストリーでなぜ農村・農民のことを取り上げるか、(3)どういうやりかたや資料によって、資料がひどく乏しいベトナム中世農村のことを研究してきたか、を少しずつ話した。歴史学専攻でない院生がかなり多いので、(1)ではリーバーマンの比較史、(2)では宮嶋博史「小農社会論」や杉原薫「勤勉革命論」、それにギアツの「農業インヴォリューション論」などの簡単な紹介をした。(3)では日本・朝鮮との比較、碑文資料の収集・使用の話をしようとしたのだが、買ったばかりのパソコンのウインドウズ8の使い方がよくわからず、時間を空費してうまくいかなかった。

歴史学専攻でない院生が多いこともあり、いろんな質問やコメントが出た。
一部を紹介する。大学教員をしている皆さんは、どう答えるだろうか?

・比較をする場合、数値を使えば比較的容易だが、民族性や習慣を国ごとに比較する場合、どのように説得力をもたせて発表をするのでしょうか。
・「東アジアは歴史を背負って争っている」という言葉が印象に残りました。思うに、ヨーロッパは絶え間ない国と国との戦争の歴史があるために、お互いの歴史の暗部をいちいち掘り返していたら外交ができなくなるという暗黙の合意があるのではないでしょうか。このような「合意」や「ルール」づくりのスピードやテクニックの面で、ヨーロッパから学ぶことは多いと思われます。
・先行研究が少ない場合、”先行研究をつくる”自分自身の声に慎重にならないといけない。
・東アジア小農社会論について-中国は広いですから、いろんな地域によって区別して考えればいいでしょうか。「江南地域」や「西南地域」や「湖広地域」などを分けて考察すればいいでしょうか。
・日本中世の生産技術と呪術はまだ未分離でした。生産技術の発展ゆえに中世後期の民衆仏教が現れたと言えばいいでしょうか。
・史料が多い時代ではなく、少ない時代をあえて研究するのは、歴史研究において一般的なことでしょうか。
・ベトナムと朝鮮では気候などで異なる点が多いと思えるが、それらの要因は土地制度にどの程度、あらわれているのか?
・もし豊臣秀吉の明征討が成功したら、16世紀以降のヨーロッパのように、資源・資本を大量に投入し、労働力の節約をはかる「農業の大規模化」「産業革命」の方向へ進み得たのでしょうか。
・時代はかわって、昭和「満洲国」を「建てて」本土の農民が移っていった時、資源・資本を大量投入した大規模農業がおこなわれたのでしょうか。

「数値のないところで比較をおこなうとき、どうやって説得力ある比較をするか」「なぜあえて史料の少ない時代を研究するのか」などは、とても本質的な質問だろう。他方、気象条件の違いの農業社会への反映もとても大事な問題だ。


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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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