「書斎の窓」4月号

有斐閣の読書誌「書斎の窓」の4月号が面白い。
酒井啓子さんの「地域研究は楽しい①すべて学生には翼がある」は、地域が学生をいかに変えるかを生き生きと書いたエッセイ。東南アジア地域研究のそういう力について、私は今や悲観派だが、中東やアフリカ、東南アジアには今でもそういう力があるのだろう。

和田俊憲「鉄道と刑法⑥乗り入れなくていいのかしら」で紹介された「東急百貨店ちり紙スリ事件」「駒場踏切不退去時間」には爆笑。
一つ目のは、百貨店のエレベーター内で他人のポケットから金銭をすり取ろうとして、実際は13枚のちり紙(今風の「ティッシュ」ではない。若い人はわからんだろうな)を盗んだところで警察官に逮捕された、その場合に「窃盗既遂罪」は成立するか、という事件。東京地裁は有罪としたが、控訴審で否定されたのだそうだ。刑法の窃盗罪は他人の「財物」を盗み取る罪だが、「ちり紙13枚は...表側の3枚は破れてほとんど使用にたえず、その余の10枚もしわがより汚損が認められる古いものであることが認められるが、このようなちり紙の形状、品質、数量、用途および被害者がこれに対し特段の価値を認めていたころを窺うに足る証拠がない...」そんなものを刑法で保護すべき「財物」とは言わないという判決理由だそうだ。もっとも盗もうとしたのは金銭だから、窃盗「未遂」罪は認定されたそうだ。

もう1件、井の頭線の踏切内で両方から来た車の運転者同士が「お前がバックしろ」と激しい口論となり、一方が後退するふりをして踏切ぎりぎりでわざと停止、前進してきた相手を踏切内で動けなくしたうえ駅の係員の訴えも無視し、結果としてやってきた電車に衝突させて、電車往来危険罪の不作為犯として有罪になったというもの。もう1件紹介されている、駅に上がる階段での政治的ビラまきが「建造物不退去罪」等にあたるかという事案は、言論・表現の自由という点で重要なものと思われるが、それより上の2件の事例に、弁当を食べながら吹き出してしまった。

その他、バングラデシュを変えた携帯「グラミンフォン」の話(田中洋子「グローバル工業化が変える世界」③)など、参考になる記事が多い。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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