世界史雑記帳(16)~イギリスの穀物法廃止

TPPに関する議論があちこちで行われていますが、暗記世界史の定番である19世紀イギリスの穀物法廃止が大事な先例だということは、みなさん認識しておられるでしょうね。

あれは要するに、「イギリスは工業国だから、国内の高い穀物を買わなくても、工業製品を輸出して外国の安い穀物を買えばいい」という話で、穀物が値下がりすれば労働者の賃金が抑えられると考えた産業資本家が、地主や農業経営者を悪者にして実現したものだと教科書に書いてある。

ただ、その後のイギリスの農業や食糧自給率については、教科書に何も書いてない。
1914年には食糧自給率が42%まで下がったが、工業が衰退した1960年代から「これはまずい」ということになって農業復興に乗り出し、2000年には74%まで回復したということが、インターネットで「イギリス 食糧自給率」と入れて検索するとすぐに出てくる。他方、日本や韓国は最近も自給率が下がる一方である。

工業が衰退しつつある日本で、TPPをやってしまって「食糧安保」が成り立つのかという点は、きわめて疑問である。まさかTPP推進論者は、かれらの多くが嫌いな「押しつけ憲法」の、「諸国民の公正と信義に信頼して」という「他人任せの平和主義」を信奉しているのではないと思うのだが?? TPP推進論者に愛国心はない、かれらのいう愛国は自分の権力や利潤の手段でしかない、と考える方が自然に思える。

ちなみに日本農業がダメなのは、保護政策で非能率な小規模農家を温存してきたからだという定番の説明は、「巨人が常勝球団であることだけが日本のプロ野球の繁栄の道だ」というのと同じくらい非論理的かつ時代遅れの説明だ。
日本でいくらやってもアメリカやオーストラリアのような大規模化は不可能である。
そして、中国の農産物が日本市場を支配できるのは大規模化のおかげではない。
そもそも農業がそんなに楽チンで恵まれた職業だったら、なぜあのように日本の農家は激減し、なぜあのように若者は都会を志向するのか。

「工業力を回復させる」「農業のブランド力を高めアジアの金持ちに日本の農産物を買わせる」
いずれももっともで、「GDP比での高等教育支出」「女性の働きやすさ」など「先進国中で最低」のことがらを、今ただちに「並の先進国」レベルまで引き上げるぐらいのことをやるなら、実現できるかもしれない。そこに目をつぶって、解雇の自由化なんていう方向ばかり推進するのなら、絵空事としかいいようがない。

われわれに中国や北朝鮮の支配層をそしる資格は本当にあるのだろうか。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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