レスリングの五輪除外

これが「ヨーロッパ各国が弱いのでヨーロッパで人気が低下している」ことが本当に原因になっているとしたら、二重三重に興味深い。先日の院入試で「志望理由書」に、知識や史料読みの技術だけでなく「人文学的思考力」を学びたいと書いた受験生がいたが、それにも格好のテーマだろう。

レスリングが古代ギリシア以来の競技であることをどの新聞も触れているが、「近代ヨーロッパ」というアイデンティティの構築にとって、ギリシア文明を自分たちの祖先に位置づける(そういう歴史像を創造し定着させる)ことは決定的に重要な意味を持っていた。これは現在の世界史の常識でなければならない。

ということは、ヨーロッパのスポーツ界にとってオリンピックのレスリングでメダルが取れないことは、日本の柔道がメダルが取れない、日本の大相撲で外国人に横綱も優勝も独占される、などに劣らない深刻な打撃だろう。

そして、今回のIOCの決定において、もしヨーロッパ諸国の委員が強硬に抵抗しなかったのだとすれば、それは「ヨーロッパアイデンティティ」の危機を意味しないだろうか。

それにしても近代五種って、日本では超マイナースポーツなのでイメージがわかないが、欧米では大事な競技なのかしら?

あとは蛇足。間にも書いたが、私の歴史学の授業でときどき「国際社会では超大国がなんでも有利とは限らない例をあげよ」という問いを発する。「それなりにレベルの高い中小国が林立している」ヨーロッパが、ワールドカップの代表数がやたらに多いことなど、スポーツ界がしばしばヨーロッパ中心に回るのはその良い例である。今回はその力学が働かなかったのだろうか。

また、日本以外の世界はだいたい自分の都合がいいようにルールをどんどん変える。「わかりにくい」「見ていて面白くない」と非難を浴びたレスリングはどうするのだろうか。まさかプロレス式にはしないと思うが。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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