スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

明治維新・3つの謎

三谷博さんの「明治維新を考える」が文庫になった。


書き下ろしの序章がまず面白い。歴史教育の現場で広く読まれるべきだろう。
武士の社会的自殺(明治維新を主導したのは農民やプルジョワではなく下級とはいえ武士だが、それが武士の特権を自分で放棄・廃止した)はなぜおこりえたか、明瞭な単一の原因の不在にもかかわらずなぜ大きな変革が実現したか、「復古」を掲げながら急速な開化を実現したことをどう理解するかの3つの、これまできちんと説明されてこなかった(そもそも説明の対象にされなかった)謎を提起している。これらの謎に迫る方法として、「複雑系」
の科学理論と、世界史上の諸革命との比較が説かれる。

序章の最後の節「普遍を求めて」では、
「本書で筆者が試みたのは、日本や東アジアの歴史の中に、人類一般の歴史と社会をより深く理解するためのヒントが隠されてはいないか、その可能性を探究することであった。日本人に限らず、非西洋世界の知識人には、自分自身の世界を理解するためであっても、まず西洋産のモデルを輸入しようと努め、うまく当てはまらない場合には、何とかこじつけたり、「特殊」とか「例外」に分類して、思考の圏外に追放したりする習慣がある。この知的慣習に従い続ける限り、我々は自分自身の社会を十分に理解できないだけでなく、人類一般に知的貢献をすることも、永遠にできないだろう...」と述べる。

あとがき(有志舎版、今回の岩波現代文庫版の二つを収録)でも、いいことがたくさん書いてある。
たとえば有志舎版には、
「日本史の論文は、普通、沢山の史料群から長い時間をかけてこれはと思われる史料を拾い出し、つなぎ合わせる形で書かれますが、(駒場の組織改革で仲間になった外国研究者を見ると-引用者注)外国研究ではそんなことはできず、太めの線で大まかな輪郭を描かざるをえません。このため、外国史研究者の議論は抽象度が高く、広い範囲をカバーすることになります。他方、日本史研究者は同じレヴェルの言葉を持たず、そのため彼らと大きな話をすると負けてしまいます。制度改革のおかげで、私は外国史研究者と同じレヴェルで考えを構成し、表現せざるをえなくなったのです」

「西洋の学問は、歴史のように、個別の史料・史実を大事にする場合でも、優れたものは、つまり他の歴史家に影響を与える作品は、常に新しい洞察、観点・言葉・技法・叙述法を提出したものです。個別の記述に留まらない、一般的な洞察を提供すること、それが西洋の学問の理想で、私は小学生の時に西洋の科学史の本を読んで以来、その世界に憧れてきました...日本人の日本史は、専門の範囲では世界的にみて高いレヴェルに到達していますが、外国での歴史研究や他の学問分野に影響を及ぼしたことはまだありません。それができて、初めて世界の学界で一人前と認められるのですが、実力があるだけに残念なことです。この本は、日本の学問が持つそうした天井を破ることを目的にしています...」

史学概論や海域アジア史研究会などで再三私も言ってきたことだが、こういうふうに問題点を見据えた研究者が史料が豊富で実証レベルの高い日本史畑からたくさん出てきたら、「太めの線で大まかな輪郭を描く」しかできないわれわれ外国史研究者などは、吹っ飛ばされてしまうだろう。

3つの謎に答える第I部の1~3章、側面からの理解を助ける第II部「維新史家たち」(マリウス・ジャンセン、遠山茂樹、司馬遼太郎という人選と配列も面白い)、それに「東アジア近世化論」と斬り結ぶ「終章 「近代化」再考」という本体は読んでのお楽しみ。

文系頭の私には完全な理解は困難だが、著者が依拠する複雑系の科学は、インプットとアウトプットがきっちり対応する古典的な方程式がたくさん組み合わさると、その一部分の微細な変化が全体として巨大で予測不能な変化になる(カオスが生み出される方向だけでなく、逆に秩序が生み出されることもある)という理論だろう。実際、たとえば明治維新第一の謎(武士自身による武士の特権の廃止)は、その場その場での個別の緊急課題への対応が積み重なるうちに、だれも抵抗できない形で特権の廃止が進んでしまった、だれかがどこかの段階で明瞭な全体プランとしてこれを主張していたら、武士階級をあげての強力な抵抗に遭遇しただろう、と説明される。

もっともだとは思う。が、ということは全体像とプランを示す内部からの改革は(日本では?)失敗するということかと考えると、歴史教育研究会で私がやろうとしていることは間違いなのかな、などと考えてしまった。

さて、今月はたくさん記事を書いた(月間最高記録)。学年末の採点論文審査、入試などで忙しい2月はどれだけ書けるだろうか。

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセス・カウンター
あなたは
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。