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外来文明が根付くとは?

先々週から先週にかけてなのだが、教養課程で東南アジア通史を教える「アジア史学基礎C」で、古代の「インド化」、中世の各「国風文化」の形成などの話のついでに、「ある国に外来文明が根付くとはどういうことだろうか」について受講生に小テスト代わりの意見を書かせた。東南アジア史と日本史の共通性に気づかせる方向での映像や講義のあとにである。

主に2つのタイプの意見が出た。
(1)外来のものがそれと意識されないまでに自己の内部に土着化する。土着文化と融合する。
(2)外来文明との接触を通じて自分の新しい文化が形成される。

どちらにしても、「まったく文明をもたない社会にインド文明が丸ごと移植された」といった上から目線で説明できる話ではない点は理解されたようだ。近代植民地においてすら、ほとんどそんな風にはいかない。一般に外来文明の受容は選択的にしかおこらないし(「自分にわかる部分しか取り入れられない」というケースも多い)、受容されたものは受け入れ側に合った形への改造や組み替えを免れない。ただ、それが土着の要素との「融合」という結果になるとは限らない。あくまで別のものとして共存するケース(対等な関係とは限らない)、むしろ外来文明の影響ゆえに土着の要素が分離・純粋化していくケースなどいろいろある。

外来文明が変形されて根付くというのは、しかし受け入れ側のアイデンティティはもとのままで維持されることを決して意味しない。昔も今もナショナリストは、外来文明を「表面的に」「便利な道具として」取り入れただけだと主張するが、現実には受け入れた自分がその外来文明なしではありえなかった方向に変化し、新しい文化やアイデンティティが創られる。外来文明の影響かでの自己形成・自己表現といってもいいだろう。そういうことを可能にした外来文明の影響やそれを流入させた国際的な「場」の力を過小評価するのは、不自然でよろしくないと説明した。
インド化・中国化史観-ナショナリズム史観-地域研究史観という東南アジア史研究の流れのなかで、そういう点の認識が一歩一歩深まってきたことは、かなり前に山川のリブレットに書いた。
東南アジア史研究の経験から見ると、日本史でおこっている「伝統的一国史観を批判するために外部の影響を過度に強調する動き」とそれに対する反論は、前者がある事物が中国起源であることをもって一国史観を否定し、後者はそれが名前だけで中国そのままのありかたと違っていることをもって中華世界の外部にありとするような、素朴な議論にとどまっている部分が少なくないように思われる。
小川剛生さんが「足利義満」で紹介している「中世に有り難がられた唐物は「和」の世界のなかに取り込まれた「唐」である」「和漢連句で扱われている中国の故事は本来の漢文学のコンテクストから逸脱させられている」という議論も、「中国そのままでないことを言えば中華世界の外部にあったことが証明できる」というのであれば、プリミティブな議論と批判せねばならない。

ある社会における主体的・創造的な外来文明の「文脈変換」と、その社会がその文明世界の内部にあることは両立する。たとえば中世の官名を唐風に呼ぶ習慣について、小川さんは「中国への憧憬」説を批判し、「他人を唐名で呼ぶことは敬意を表し、自ら名乗れば尊大の気があった」のは、唐名が古くから浸透していたからで、「日本文化の一部」だと論じるが、私にはこの理屈が理解できない。ベトナムにも「ベトナム文化の一部として」見られるのだが、唐名だとカッコよく感じられる」という心理は、たしかにそれぞれの「民族文化」の一部として表出される。だが、なにがなんでもそれを「中華世界の引力」から切り離す必要はないだろう。ベトナムのナショナリストの日本人など足元にも及ばない強烈なナショナリズムにもかかわらず、ベトナムが中華世界の外部にあったなどとは到底言えない。

義満にせよだれにせよ「中国のことなんかわかっていなかった」という小川さんたちの意見も、それ自体は正しいだろうが、それが中華世界からの独立の証拠にはならない。「アメリカの手のひらで踊ってきた」戦後日本の政治家たちだって、アメリカのことを十分解ってなどいなかった。






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先々週から先週にかけてなのだが、教養課程で東南アジア通史を教える「アジア史学基礎C」で、古代の「イ

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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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