朝日新聞社説

8日の朝日社説「歴史教育 世界の中の日本を学ぶ」の話題があちこちを飛びかっている。
学術会議の歴史基礎の提言も紹介しながら、近現代と東アジアを中心に世界の中の日本を学ぶ、それを阻んでいる世界史と日本史の間の壁をなくせ、領土や歴史認識でどんな立場をとるにせよ近隣との関係の歴史を知らねば発進力や論争力のある日本人はできない、といった趣旨だ。

正しい指摘である。その方向に進むべきだ。
が、この記事を書いた記者や読者に、「そんなこと、自分たちはとっくにやっている」と世の無理解を嘆いている現場の教員が少なくないということを知っているというか想像できる人が、どれだけいるだろうか。
文科省の学習指導要領は1990年代からそういう方向を指示していることを、教科書にもその方向でたくさんのことが書いてあることを、どれだけの人が理解しているだろうか。

いや、現場の教員(大学教員はとくに悲惨)で、そういう流れや教科書の新しさを理解している人がどれだけいるだろうか。
某社の高校世界史の参考書(執筆は高校教員らしい)をたまたま見て、その疑念を強めた。
大塚史学と、「マルクス主義と日本で思われたスターリン主義と毛沢東思想の混合物」が、いまだに再生産されているのだ。ギリシア・ローマや近代イギリスが人類史の普遍で、東洋は専制のもとで停滞してきた。民衆は「常に虐げられて苦しんでいるが」「やがて正しい近代化に目ざめて闘争する」。。。
教員も含め、歴史を専門にするような人間はやっぱり論理的思考が苦手だということが、遺憾なく示されている。こんなことで、ウルトラナショナリズムを批判しつつ近隣諸国の相互の立場を理解するなんて、無理だよ。

別件で最近、東アジア交流史の教育に熱心な先生方とよく話すのだが、そのなかにもエピソードとしての友好や交流の話ばかりで、海域アジア史の時期ごとの変動といった「流れ」や「構図」をつかむ訓練のできていない先生がけっこう多くてがっかりする。それでは「歴史の流れを理解しろ」といくら生徒に言っても無駄だ。

こういう後ろ向きの批判ばかり書くのはいけないとわかっているのだが、
この2,3日、正直言って憂鬱で悲観的な気分である。

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No title

センター試験の世界史の問題も、その方向(世界の中の日本を学ぶ)で進んでるんですがね。数年前、『世界を舞台に歴史授業をつくる~嫌われても世界史はやめない~』という本がでましたが、「世の中の世界史の教員はこれくらいやってるよ」という内容で、いまさらこんな本が出されたことが現状を示している....というのが実感です。社会教育学の学会誌の書評では好評でしたが。

アジア史と日本史

平井先生、さっそく次々とコメントをお送りいただき、ありがとうございます。
入試でも「日本銀」「朝貢・冊封」など定番に近くなった問題がいろいろあるのは嬉しいですが、その一方で朝貢・冊封などは誤解が広がっている面もあり、なかなか喜んでばかりもおられません。

リカレントも含め教員養成教育を大幅に変える、大学側の教養・専門教育も大幅に変える、などを本気で実現しないと大変なことになりますよね。

No title

>朝貢・冊封などは誤解が広がっている面もあり
なるほど、そう言われるとちょっと私も冷や汗かもしれません。2008年の問題ですね。
プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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