骨がらみのヨーロッパ崇拝

「市民のためのアジア史」第5回の小テストは、
「大航海時代のヨーロッパ人がアジアにもたらしたものを、商品ないし産物、技術、信仰などから4つあげて、それぞれの影響を簡単に説明せよ」。

メキシコ銀、ジャガイモやトウガラシなど新大陸産の作物(梅毒のような病気も)、銃砲、キリスト教(天文・暦法などの技術も)といったところを取り上げて影響を説明するのが定番だろうが、すでに採点をおえた教養課程(市民のための世界史III)では、珍答迷案がたくさん出た。

・綿織物を伝えた(??????)。
・銀の製錬技術が伝わって日本の銀生産が増加した(石見銀山の灰吹き法は中国系の技術だと講義で言ったのに...)。
・西洋医術、天文学、数学などが伝わって、アジアの(日本の)科学や教育が急速に発展した。
・活版印刷術が伝わり、各地の情報伝達の水準が急上昇した。
・快速帆船が伝わり大洋航海が可能になった(天正遣欧使節などの話かな? しかし大洋航海は鄭和の遠征の例を引くまでもなく、以前から可能だったのだが)。
・プランテーションによる生産方式が持ち込まれ、東南アジアの経済が改造された(いつの話だ?)。

直接の問題は、説明抜きで切れ切れに語句だけを暗記していること、それに最後の例に見られるように、それぞれのできごとがいつごろ起こったかをいい加減にとらえていることなどである。教科書でも大航海時代、17世紀末以降、19世紀以降などのヨーロッパ人の勢力や活動方式の変化は書いてあり、(正確な年代の暗記でなく)できごとの発生順や大体いつごろの時代かを問う入試問題は珍しくないのだが。

しかし16世紀も19世紀もいっしょくたにする原因は、単に勉強のしかたがいいかげんなだけではないだろう。(1)16世紀以後の世界史は、ヨーロッパ人による一方的・不可逆的な世界制覇の歴史である、(2)ヨーロッパは最初から近代化しており、アジアよりずっと進んでいた、などの思いこみが明らかにみられる。だから、受験秀才たちが大学で、ヨーロッパの経済力や生活水準が18世紀にも中国・日本の中心地域といい勝負だったというポメランツ説などを聞くと、びっくり仰天することになる。

ヨーロッパ中心主義に反発するあまりに近代ヨーロッパの達成を全面否定することは、不可能かつ無意味である。しかし、上の例のような「骨がらみのヨーロッパ崇拝」を再生産していては、21世紀の日本は滅びる。こういうことは、意識的かつ強力に是正しなければならない。

さて、これから採点する「市民のための世界史S」はどうだろうか?
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まとめtyaiました【骨がらみのヨーロッパ崇拝】

「市民のためのアジア史」第5回の小テストは、「大航海時代のヨーロッパ人がアジアにもたらしたものを、商品ないし産物、技術、信仰などから4つあげて、それぞれの影響を簡単に説明せよ」。メキシコ銀、ジャガイモやトウガラシなど新大陸産の作物(梅毒のような病気も)...

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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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