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文化人類学の先祖返り?

本屋で見つけて、栗本慎一郎『ゆがめられた地球文明の歴史 「パンツをはいたサル」に起きた世界史の真実』という本を買った。
氏が書いたポランニの経済人類学の解説本で蒙を啓かれた身としては、悲しい「トンデモ史学」の本である。

「ほとんどすべての日本人は、中学・高校の世界史の教科書だけで歴史の知識を得ている」という「はじめに」の第1行(p.2)から二重三重の意味で間違っている(もし著者の言う通りだったら、われわれとしてはうれしいのだが、残念ながらそういう状況になってはいない)ことは、歴史教育関係の方なら常識だろう。

「はじめに」での、「そこに言われている科学としての歴史と言ったって、知的思想的に劣っているものだ」(p.2)、「歴史を考えることは、実はつねに「異文化理解」という側面をもっているものだ。けれども、正規の歴史学とやらは、そんなことは全然無視している」(p.3)という記述などなど、本書では歴史学と歴史学者への口汚い攻撃が繰り返されるが、何十年前の話をしているのだろう。今はもう教えていない「絶対主義」の古い解説を得々とするような、個々の知識の古さは、言ってもしかたがないが。

ここに限らず著者は、
・敵の中のできの悪い部分でもって敵を代表させ、それをやっつけることで自分を正しく見せかける。
・自分に都合の悪い研究や自分の知らない歴史は、存在しないことにする。
・否定できないものはすべて正しいという論法を使う。

など、学知の持ち主としては恥ずかしい書き方を繰り返す。

これまた「はじめに」で、これまでの世界史を「ヨーロッパのゲルマン民族とアジアの漢民族(中国人)の自己中心的で勝手な俗説の寄せ集めなのである」と著者は書く。阪大では当たり前の説で、著者の発明だとはとうてい思えないが、代わりに中央アジアの北部草原の動きですべてを一元的に説明する論法は、著者が馬鹿にする歴史学者の一部が唱える「中央ユーラシア中心史観」と同様、論理的に支持できない。「ヨーロッパが最初から進んだ独自の地域だった」という虚構を批判するのは正しくても、「アジアとヨーロッパ」という二項対立自体は否定しない(オリエンタリズムを裏返しただけの)著者の論法も、私がいつもけなしてきた「裏返しのアジア中心史観」にすぎない。「賢い文化人類学者」はこんな非論理的なことをやらないはずだ。

ちなみに著者は、文明というのはエコロジカルな調和をこわす「病」である、ヨーロッパの「発展」(実は病)の根源は必ず正統派と強力な異端派が存在する二重性にある、などの大事な指摘をしているのだが、なにしろ初期の文化人類学や民族学が得意とした、アマチュア好みの時空を飛び越えた推論を縦横に振り回すうえに-中央ユーラシア中心史観は、それを今でも使っている部分がある-、「アジア・東欧北満洲起源説」を「人類史の主流」(p.23)などと肯定的に言ったりするものだから、せっかくの大事な指摘(もしかして中央ユーラシア中心史観へのキツイ皮肉??)が読者に伝わるとは思えない。

「最初から真実を求める人」(p.9)だけのために書かれた本書に、東南アジアなどは出てこない。アフリカも人類誕生以外は出てこない。私は人類学者からの、「歴史学者は進んだ者、強い者の立場でしかものを考えないが、人類学はそうではない」という批判を有り難かったと思っている人間だが、著者にとって(歴史を論じる場合には?)そんなことはどうでもいいらしい。

どの分野でも、人間年を取ると、子供時代や若いころの考え方に戻ってしまうことがよくある。著者の「とっくに消えたマルクス主義のドグマへの執拗な批判」「アームチェア人類学の時代への逆行」などはその例だと感じた。また、部分部分は良くても全体の構築力(まとめる力)が落ちることが多い。クラシック音楽で言えば、私の大好きなラフマニノフが作曲した、ピアノ協奏曲第4番はその痛ましい例である。本書も、いいことを書いている「部分」はあって、全体の構成はデタラメである。

百歩譲って、「今でもマルクス主義を信じている団塊の世代」向けなら、この本は使えるところがある。が、この本の内容は、大学生向けの講義で話されているそうだ。こういう「自己中心的で勝手な俗説の寄せ集め」を聞かされる学生は、困るだろうな。
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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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