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「歴史研究の理論と方法」第2回

史学概論にあたる「歴史学方法論講義」(講義題目「歴史研究の理論と方法」、担当:桃木・秋田・市)の第2回は私の担当。第1回は「阪大史学の挑戦」の紹介が主だったので、歴史学そのものの解説は実質的に今日からである。総論として、おもに2つのことを話そうとした。

1.歴史学とはなにをどうする学問かについて。遅塚忠躬、小田中直樹などの説も引きながら、事実の確定と歴史像の構築の区別、尚古趣味-考証-歴史学という遅塚のいう三重同心円構造、歴史学を学問たらしめるものが単に厳密な史料批判にもとづく事実の確定だけではなく、完全に実証的・価値中立的ではありえない歴史像の構築まで含めた根拠の明示と論理性、それに支えられた研究者・知識人間のコミュニケーションにあることなどの説明を試みた。このへんをこの講義の入口でしゃべるのは、今年が初めてである(そういう場合にいつも陥るパターンで、説明がなかなかうまく流れず、思わぬ時間がかかった)。

2.次は毎年やっている、近代歴史学がなにを対象にしてきたかの大きな流れ
(1)ランケに代表される19世紀以来の歴史学:当時の近代国家の主役となるべき「財産と教養のある成人男子のための歴史」・・・歴史は国家・民族単位で論じられ(世界史はそれらの寄せ集め)、主な対象は政治史、外交史など、目標はあくまで「客観的」「事実」の解明。
(2)20世紀に入ると影響を強めたマルクス主義などの新しい潮流:経済と民衆への着目などで対象を広げたが、国家・民族単位、男性の視点というところは(女性解放などをうたったが)変わらず。
(3)1970、80年代から人類学、地域研究やポストモダンの諸思想などの影響をうけつつ、対象が一挙に拡大、方法的にも多様化・・・「グローバルヒストリー」と「地域社会論」など国家・民族以外の単位設定、社会史やジェンダー史、環境史などの新しい領域。文化史など「主観の世界」への切り込みなど。

ついでに、これも定番の日本の学界の位置づけ。史料にもとづく考証の緻密さ、世界のほとんどの地域・時代や領域についてハイレベルな専門家を有する点などで世界一と言えるが、「日東西」の三区分、ヨーロッパ中心主義と日本特殊論、細かいところにこだわって全体を見ることが苦手、仲間内以外への発信・対話のできる専門家が全然足りないことなどの大きな欠陥をもつ。

最初でなくても、研究のどこかの段階でこういう俯瞰をしておかねばいけないという私の考えは間違っているだろうか?
大学なのだから、こういうレベルの知識・理解は講義で教えるのでなく、史料や文献を読ませ考えさせて、自分でたどり着かせるだけでよい、という「圧倒的多数派のやりかた」は、私にはどうしても理解できない。
それは歴史学がもっとずっと単純で、教員も学生も今よりずっと教養と暇があった時代の話だとしか思えない。
ちなみに私の意見は、史料研究が歴史学の基礎であることをまったく否定しない(批判しているのは史料万能論である)。来週の第3回は、市先生が高度な史料論を講義する予定である。

なお、この授業や木曜日の「歴史学のフロンティア」など方法論(史学概論)系の科目、それに世界史そのものの骨格をとらえる「市民のための世界史」、そしてプレゼン・他流試合の訓練である「歴史教育研究会」(大学院科目としては世界史演習/歴史教育論I演習)やCSCD科目の、3種類すべてを(同一学年内でなくとも)履修してほしい--それも、方法論系や他流試合系は、一度で簡単には身につかないので、学部と修士とか修士と博士など複数回履修すると定着度が大幅アップする--という、われわれの訴えにこたえる学生・院生が、少しずつ出てきたのはうれしいことだ。


『歴史評論』5月号は「特集/歴史学をどう学ぶか」で、座談会「いま、大学で歴史をいかに学ぶか」などを掲載している。森谷公俊「新入生のための歴史学入門」、岡本充弘「開かれた歴史へ」など大事なことを書いた記事もあるが、特集の大半は、「個々の教員や学生の工夫」の紹介と「研究会に出ろ、他流試合をしろ、それで自分で道を開け」という一般論にとどまっている。それでうまくいかない現状をどうしたらよいかという問題意識はあまり感じられなかった。
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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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