大学教養課程での世界史教育実施状況

歴教研月例会にAAWHのプレ報告会などが続いて、嵐のように3月最終週が過ぎ去った(飲み会が週に5回!)。

月例会では、中村薫・荒川正晴両先生に、他大学の教養課程での世界史の授業についての調査報告(シラバスとアンケートからの調査)をしていただいた。117校のシラバス、35大学38名のアンケート回答をもとにしたものだが、学生の知識・関心や問題意識の低下に危機感をもち、やさしくかみくだいた講義をする、基礎知識の補足説明をするなどの対策を個々に取っている大学・教員は珍しくないものの。なぜこうした状況が生まれるのかの背景を掘り下げて調べる、対策としての授業改革を組織的に実施する、といた取り組みはほとんどおこなわれていないように見えた。
授業の中身の面では、国際教養大学と南山大学という国際標準に合わせようとしている大学で、それぞれ1400年、1500年以降の世界史を、ただし外国人専任教員が、教えていることが興味深い。

その他の大学で「世界史」「世界史概論」などを開講しているところがいくつかあるが、いずれも非常勤教員の授業である。つまり、専任教員は「専門の切り売り」を続けているということ。また「世界史」の中身も、ヨーロッパ史中心のものがほとんどであるとのこと。
唯一の例外として紹介されたのは、神戸の流通科学大学で、日本史・東洋史・西洋史の3人の教員が協力して、それぞれの概観を教えるとともに、3分野の寄せ集めにならないように共通の接点を設けて講義をする、「教養基礎」科目として、高校の日本史・世界史と大学の(より個別的な)「教養展開」科目への橋渡しの役割を担う、など、組み立てや位置づけがよく考えられている。
国際教養大、南山大、流通科学大と並ぶのは、「国際人(国際ビジネスマン)にこれだけは教えておかねば」という精神に徹すれば、こういう概論が当然出てくるということだろう。

何度もしつこく繰り返していることだが(百万回でも言おう)、学習者に「一度、簡単でいいから全体を見させる」ことは、市民社会の形成、世界での活動などのために必須である。アラカルト型の興味深い各論は、それとセットになってはじめて効果を発揮する。中学・高校でそうした全体像を教えられないのであれば、大学でやるべきだ(全体を教えるのは、必ずしも各論より前でなければならないとは言いきれない)。

そんなことを言われても、Y社の高校教科書の棒読み以外のやり方で全体を講義するなどどうやっていいのか想像もつかない、という大学教員が99%かもしれない(しかも、Y社の教科書全部を講義するような時間数の授業設定は、高校では辛うじて可能だが、大学ではまったく不可能である)。

その点で「我が意を得たり」と思ったのは、昨日のプレ報告会に来た阪大東洋史OBのOTさん(中国近代史)が、教養課程でなく教員養成課程の授業だが)中国通史の講義を開設しムリヤリ最後まで教えて、半信半疑だった教員志望の学生を「やればできるんだ」と納得させたという話である。これが(大学でも高校でも)あるべき教員の姿である。
中国通史(や東南アジア通史)が可能なら、日本通史も世界通史も可能なのである。教育学専門でないOTさんが教育学部に勤め、「合同演習」仕込みの細かい「形」の指導や他分野の学生へのアドバイスなど、いろいろな面で成果を上げていると聞いて、うれしかった。プレ報告会の方では、そのOTさんや日本史のGTさん、オスマン帝国史のHSさん、タイ近代史のKWさんのグループ(全員30代の若手研究者)が、「19世紀アジアの政治空間」パネルについての討論ですごく盛り上がり、国内外への発信を大いにやる気になっている。その意気やよし。

30日と31日の会には、AAWHで発表・コメントをお願いしている韓国のKMQさん(東北アジア歴史財団)も参加してくださり、有益なお話をうかがうことができた。「(外国に対して批判的な意見を言うためにも)外国のナショナリストにツッコミどころをあたえないように韓国史を開かれたものに変えねばならない」「賛成できなくても、相手の言い分や実情を理解しなければならない」などのご発言に深く同感。

しんどかったが、元気をもらえる一連の会だった。

静岡大のIさん・Tさんが来てくださり、静岡での高大連携の新しい取り組みについて紹介してくださった。茨城大でも新科目設置などを検討中とのことである。新しい動きも始まっている。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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