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ベトナムの学術雑誌

「市場経済化が進む発展途上国」であるベトナムでは、「賢い学生」は儲かる分野、外国に行けるような分野を選ぶ。阪大に来ている留学生も、ご多聞に漏れず工学系や経済系が圧倒的に多い。

しかし、儒教の伝統や社会主義と唯物史観のタテマエ、歴史によりどころを求めるナショナリズムなどいろいろな理由で、歴史学や考古学など人文系の研究も、「あのGDP水準から見たら信じられないほど」頑張っている。近年では「歴史研究」「考古学」「東南アジア研究」など多くの学術誌が、年間発行回数を増やしたので、つぎつぎ送られてくる雑誌を読むのがたいへんである。
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*ベトナムの社会科学・人文学系の研究機関や学術活動、雑誌についてはあまり知られていないので、拙著「中世大越国家の成立と変容」序章に、長めの概要紹介を書いた。

「歴史研究」「漢喃雑誌」なども大事なのだが、とくに読まねばならない論文がよく出るのは、「考古学」である。タンロン遺跡にかかわってますますそうなったのだが、ベトナム古代・中世史は文献史学が不振なのに対して考古学の前身がめざましいので、よけいに「考古学」が大事になる。

表紙の写真を掲げた2010年6号では、Phạm Văn Triệu, Cấm thành Thăng Long thời Lý (1010-1030) và giá trị các dấu tích kiến trức ở khu A (phía tây cấm thành)(ファム・ヴァン・チエウ「李朝期(1010-1030年)タンロン禁城とA区の各建築遺構の価値」)という論文が、1017年の地震または雷で壊れた正殿(乾元殿)にかわり、1020年に西側に建設された新しい正殿は、ホアンジエウ通り18番遺跡のA区南側で発見された大型建物がそれに当たるのではないかという仮説を提出したものである。
その当否はまだなんとも言えないようだが、「禁城」内部にも空間をしきる塀がいろいろあり、1029年に建設された「竜城」はその一つだろうという仮説(「待兼山論叢」ほかに発表した私の研究でも、同様の可能性を指摘しておいた)も、竜城については別の解釈が可能であるとはいえ、魅力的である。この正月にハノイで聞いた18番地遺跡の発掘責任者ブイ・ミン・チーさんの話と合わせ、宮禁空間全体を囲む城壁だけでなく、塀の種類や機能を考えることの重要性がはっきりしてきたように思われる。

2011年5号の方は、クアンニン省西端のドンチエウ県にあるデンタイ遺跡で発掘された、陳朝期の巨大建築遺構の報告を中心に、近くのアンシン(安生)にある陳朝陵墓群にもふれた特集号である。昨年行われたシンポにもとづくものらしい。私も2009年暮れに訪ねた場所なのでなつかしい。

興味深いのは、デンタイ遺跡は陳朝の太廟(歴代皇帝を祀る廟)らしいということである。首都であるタンロンに太廟を置かなかったのは、この特集号の畏友大西和彦氏の論文(元朝の使者の記述から見た13世紀陳朝皇族の祖先祭祀の場所について)によれば、陳朝は前漢で各郡国に太廟設置を許した故事に倣い、初期の宗室の最長老だった安生王柳の本拠や、次の世代の中心人物の一人だった昭文王日遹の本拠(大西氏はゲアンとするがタインホアではないか)など有力宗室の本拠地に太廟を設けさせたためではないかということだ。

意図的に唐宋代の中国でなく漢代の制度を採用したとすれば面白い。「関内侯」などの爵位、それに貴族だけでなく一般の良民におよぶ「民爵」が存在したらしいことなども、同じ方向で考えられそうである。

こういう地方での発掘や研究の情報なしでは、今やベトナム前近代史の本格的な研究は難しい。最近は地方の文化・遺跡管理機関と、中央の考古学院や歴史博物館が協力して、地方の遺跡の詳しい発掘・研究をおこなう(地方側から見れば地域興しの一環として)例が増えている。
この冬のバクザンの調査でも、本題である莫氏の研究だけでなく、李朝期の豪族申氏について、多くの情報を仕入れることができた。ということは、「最初からベトナム全体を扱う」研究などもう古いということだ。地方ごとの掘り下げた研究をしてから、それを総合してはじめて「ベトナム史」の全体像が描けるという、当たり前の段階がやっと来た。




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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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