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シリーズ日本の中の世界史

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シリーズの第1冊として南塚信吾著『「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本』(岩波書店)が出た。

高校「歴史総合」などもにらんだ企画だろう。池田忍、木畑洋一、久保亨、小谷汪之、南塚信吾、油井大三郎、吉見義明の7人がそれぞれ1冊づつ出すそうだ。

本書の章立ては
プロローグ--「連動」する世界史
第I章 変革の時代-世界史の中の幕末・維新
第II章 「国民国家」の時代--世界史の中の明治国家
第III章 帝国主義の時代--世界史の中の日清・日露戦争
エピローグ--「土着化」する世界史

本シリーズの特徴は、著者陣の中で「日本史学」の専門家が少数だということである。
「日本対外関係史」を除けば学界では「日本史」と「世界史(=外国史)」は棲み分けてお互いの縄張りを荒らさない(→「世界史」の中には日本は申し訳程度にしか出てこない)というのがこれまでの通例だったが--そう書くと怒る専門家もいるだろうが、大勢が宋であることを否定するのはとても難しい--これはそういうタブーを犯して日本史以外の専門家が日本史を含む世界史を書いてしまおうおうという企てであろう、海域アジア史や世界史教育で同じ試みをおこなってきた人間として、とても喜ばしい。

ただし日本史の多数派(「主流派」でない「多数派」だというのが中世史のT先生の表現)にこういう著作が理解されるかどうかは、なかなか簡単ではないだろう。なにしろ「日本の日本史」はいかなる「日本の外国史」より研究の層が厚く、先行研究を正確に押さえることは--日本語で読めるという利点があるにせよ--とても難しい。また日本史学界は時代別・テーマ別などの講座・展望類を出すことに熱心だが、それがスタイル、内容、ボリュームなどどこを取っても、基本的に「日本語ネイティブの日本史専攻者」以外の読者を想定していない点が、巨大な障害を作りだしている。

ということで日本史専門でない学者の著作を日本史専門家が読むと、「なんだこの不正確な記述は、全然わかっとらん」という違和感が必ず湧き出るだろう。問題はそこで本を置いて「以後無視する」となることである。
これはもちろん日本史専門家だけの問題ではない。日本史研究者が対外関係史や比較史などで外国のことを書くと同様に不正確な記述が混じることは避けがたい。「これだから世界を知らない日本史研究者は」といった批判も浴びがちである。お互い様であって、両方が相手の理解につとめるべきなのだが、問題が日本では「日本史」と「外国史」の関係は不均等だという点にある。研究者や学生の数、出版界やマスコミでの扱いなど、すべてはっきりとした不均衡がある。
相互関係が不均等なもの同士が「平等に」競争し「平等に」結果責任を負うという思想は、現在の新自由主義をはじめ歴史上で枚挙に暇がないが、それでいいのだろうか。

日本史についての誤解・曲解はこういう外国史研究者による者に限らない。今話題の『日本国紀』など学界外の著者・論者によるものは、より深刻な問題を作りだしている。要するに外国史研究者やアマチュアなどの「よそ者」が問題を起こしているわけである。
ただそれに対し、「これだから素人は困る」と冷笑するだけでいいだろうか。
それは結局、外国人の観光客や労働者が示す日本文化に反する振る舞いお粗末な日本語に対して怒りながら、他方で「日本文化の奥ゆかしさはしょせん外国人にはわからない」「日本語は難しいから外国人にはわからない」などと平気で言って、「わからないならわかるまで教えよう」とは夢にも考えない人々と同じことをやっているのではないだろうか。

私がいくらそう言っても、動かない日本史専門家がたくさんいる。もちろん私の働きかけも下手なのだが、ベトナム史の何百倍も教員ポストを持っている日本史がどうして動かないのだろう。見ていられなくて、私は(1)日本史の先端研究が届いていない相手への普及活動、(2)せっかくの研究を世界の中に位置づけられないでいる日本史専門家への口出しなどのかたちで、日本史を語ってきた。今回の著者陣も同じ感覚を共有しているに違いない。対外関係史以外の日本史学界がこれに答えないようでは歴史総合の失敗は必至である。その先に待つ外国史だけでなく日本史学界にとっても悲惨な政治的・経済=社会的な光景を、私は見たくない。

※日本社会の欧米崇拝、アジア軽視、中でも東南アジア軽視などの問題と歴史学界・教育界の責任についてはここでは書かない
でおこう。日本史の責任はそこでも看過できないが。




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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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