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妹尾達彦氏のグローバル・ヒストリーを読む

 断続的に読んでいた妹尾達彦さんの『グローバル・ヒストリー』(中央大学出版部)をようやくほぼ読了。大量の参考文献に圧倒される。都市・環境と交通を重視した妹尾さんらしい議論が勉強になる。西アフリカに焦点を当てたあたりもさすが。

 全体のストーリーは岡本隆司さんとの共通点もいくつか見られる。ただ、両者とも近世~近代の世界史を具体的に叙述しない点は疑問がある。これは著者の意図するところと逆に、古いタイプのヨーロッパ史像を温存/再生産する危険がある。読者に、その時代の歴史像そのものが従来のヨーロッパ中心の世界史とは全然違ったものになっている点の叙述は、ヨーロッパ中心史観を乗り越えるためには必須だと私は考えるのだが(そこを抜きにして古代中世のアジアの中心性・先進性とヨーロッパの辺境性・後進性、近代ヨーロッパの侵略性と破壊性やその近代化の偶然性を言っただけではヨーロッパ中心史観に対する十分な批判にならないことを、妹尾さんは理解しておられると思いたい)。初期国家・近代国家など国家の説明もイマイチだ。
 もう一つ、ご自分でことわっておられるが、島の世界の位置づけがない。それは意地悪くいえば、日本やイギリスをわからなくしていないか。陸と海(内陸と沿海)の対比だけでカバーできない問題がそこにあるように思う。日本の天皇制が中国との対峙のなかで形成されたという説明はさすがだが、近世日本の古い「鎖国」イメージとは違った激動などの叙述がないため、大陸や世界宗教の普遍性を拒む日本の特殊性を否定的にとらえる昔ながらの論理(それへの反発が歴史修正主義の強力な基盤になっていないか)に読者をミスリードする危険が小さくないと感じる。

 あとは小さいことだが、妹尾さんにしては東南アジア史の叙述が不充分・不正確なのは、岩波講座東南アジア史や平凡社の東南アジアを知る事典などを他分野の研究者にも読んでもらおうと思って編集に関わった人間としては残念。東南アジア港市と港市国家(シュリーヴィジャヤ・三仏斉など)の理解は特に問題が多い。港市の立地(河川港が多い)と後背地の密接な関係に関する一連の議論を参照してほしかった。東南アジアの歴史書としてベトナムのものしかあげない点と合わせ、石井米雄、深見純生、弘末雅士、青山亨などいろいろな研究と概説・事典項目があるのを参照・確認することは出来なかったものか。妹尾さんが書いてくれなかったら、他地域の専門家が東南アジア史を「無視」でも「古い知識でいい加減なことを書く」でもなく適切に位置づけて世界史(近現代史だけでないもの)を書くことは、日本では当分期待できないと悲観したくなる。
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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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