宗教史を理解するポイント

阪大歴教研の公式ブログの教員も記事を書くように言われ、宗教史を理解するポイントについて書いた(月曜日に掲載予定です。右のリンクボタンからどうぞ)。

先に補足を少し。どれも阪大では再三再四話してきたネタだが。

第一。歴史上のバラモン教・ヒンドゥー教(どのへんで両者を区別するかはむずかしい)を「インドの民族宗教」と教える先生がいるが正しくない。
インドは単一民族国家ではない(そもそも英領以前に単一帝国に統一されたことすらない)。
しかもアンコールワットやバリ島の芸能を見ればわかるように、ヒンドゥーは東南アジア各地に影響を与えている。ちなみに「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」は東南アジアにも大きな影響を与えているが、あれは世俗文学ではなく、バラモン/ヒンドゥー的な世界観を濃厚に反映した作品である(それを知らないと、イスラーム化したジャワやマレー半島でラーマーヤナを題材にした影絵芝居が演じられ続けることの面白さがわからない)。

現在のインドではヒンドゥー教を国民統合の軸にしようとする勢力が、国民会議派など世俗主義政党に対抗して大きな力をもっているが、これはネーション(国民)の統合を主張しているのであって、エスニックなレベルと混同される「ヒンドゥー民族主義」の訳語は適切でないだろう。

第二。イスラーム世界での他宗教の扱いを教える際に、
・教義のうえでユダヤ教、キリスト教を全否定していないこと、
・租税負担や金融などいろいろな面でイスラーム社会が異教徒の存在を必要としたこと、
・コプト教徒やアルメニア教徒など東方キリスト教徒の諸集団の存在
などをしっかり教えたい。
最後の点は、カトリックとプロテスタントだけがキリスト教であるかのような「西欧崇拝」の歴史像を解体する課題にもつながる。

「東南アジアの仏教は古代から上座(部)仏教だったわけではない」「イスラームを「厳格な一神教」と教えることの問題点」「古代インドのヴァルナと近代のカースト制を直結する歴史像の誤り」などは、常識だからもういいですね。

それより、みなさんはインドで仏教が衰退(本土では消滅に近い状態)した理由をどう説明しますか。
北インドではイスラームにひどく攻撃されたこともあるだろうが、
全インド的に見てより大事なのは、ヒンドゥーとの「取り込み合戦」に敗れたこと。密教はヒンドゥーの神格の多くを「天」などの形で取り込み「仏」より下位に位置づけたが、相手も同じことをしていた。最後はブッダは「ヴィシュヌ神の化身のひとつ」のような形にされてしまったのだそうだ。

ちなみに新興宗教などが既存の宗教を批判する際にも、「全部誤り」と切り捨てるパターンと、「うちの宗教はお前らを包括するより上位の(より総合的な)信仰なのだ」と取り込んでしまうパターンと両方ある。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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