中高生は理屈を受け入れないか?

金曜日は神戸大附属で歴史総合の研究会。土曜日は阪大の歴史教育研究会で日本史の地図、文書や木簡についての資料学的な報告。
神戸大附属では国民国家をテーマとした単元の導入として「日本はいつから日本だったか」という問いを提示した奥村先生の授業、狭義の近代だけでなく分水嶺としての近世から歴史総合を教えるべきことを説いた杉山清彦さん、それにアクティブラーニングの意味とありかたについて論じられ、後者については解釈批判学習やメタヒストリー型学習など可能な5つのパターンを紹介された鳴門教育大の梅津先生の報告を聞いた。

それぞれとても面白かったのだが、いちばん我が意を得たりと感じたのは、梅津先生の2つの話だった。ひとつは歴史総合で相対される内容を、高一でやっておしまいでいいのかという話。世界史・日本史の「探求」のあとに、(歴史だけ出ない市民的学習の)まとめが必要になるのではないかと言われたが、これは大学における教養科目や概論の問題と完全にパラレルである。大学でも大半の学生と教員は、そういうものを先にやってあとは専門科目をやればよい(まとめの役割は卒論?)と思っているが、それでは必ずしもうまくうかないので、最近は「高度教養教育」が広がりつつある。なおこれは、昔からある「教養科目と専門科目を両方へ移行して履修させよう」という議論とはイコールでない。そこでは教養科目の質やレベルはあまり突っ込んで考えられていなかったのに対し、高度教養教育は「専門のあと」に必要な質やレベルを明示的に考えているからである。

梅津先生の話でもっと印象に残ったのは、地元の中学校の先生たちとの共同研究で、まだなぜそうなるかは説明できないが、理屈を先行させる演繹型の授業を適度に混ぜると、中2の後半から中3にかけて生徒の学力に飛躍がおこるという事実が観察されるのだそうだ。これまでの教育理論では、子供は発達段階から言って抽象的な理論を受け入れのくいので、事実を覚えたり考えさせるなかで帰納的・経験的に抽象的な思考を覚えさせるのが正しいとしてきたが、必ずしもそうではないというのだ。私が中学・高校時代に将棋が好きでアマチュア2段まで取った経験からいっても、これはたぶん正しい(各教科の中卒程度の学力というのは、将棋や囲碁のアマチュア初段ぐらいに当たるんじゃないかと思う)。中高レベルの教育でひたすら事実を先にするやり方はおかしいのではないかと、理屈好きな私は散々言ってきたが、「それは先生が秀才だったからです」という反応が返ってくるばかりだったので、この点での教育学理論の深まりを大いに期待したい。

これに関連して金曜も土曜も問題だと感じたのが、歴史学というのは社会科学と違い、一回性の事実だけを扱う(のがすべての出発点である)という、史学概論などでよく語られる言い方の「害悪」である。とくにマルクス主義が衰退したあと、この言い方は学生や研究者・教員に「自分たちは理屈を勉強しなくていいのだ」という逃げ道を与えてきた。それと、佐藤正幸先生の言う大学における史学史・歴史理論の教員ポストの不在、ドイツ由来のゼミという型式と日本的な職人の世界が結合した「方法や理論は講義で言語化して教えるものではない」という「偏見」などが結びついた結果なにが起こっているか。これまた散々書いてきたことだが、たとえば歴史を「実証」するというのはどういうことかという認識論に関する、あまりにもナイーブな言説が研究者間でも放置されているし、学生に至っては基本的な論理性を欠いていることが珍しくない(たしかに「理論」がなくても歴史の研究はできる部分があるが、「論理」がなくては研究はできない)。

繰り返しで進歩がないのだが、文化人類学が歴史学をどう攻撃してアジア研究のポストを大量に奪い取ったかという話を、昨日の飲み会で思わずしてしまった。もちろん文化人類学にも固有の行きづまり状況はあるが、しかし一方で人類学のかなりの学生が基本の理屈を語れる、しかも文献しか読まない普通の歴史学者は村に住み込んで参与観察をする人類学者のような意味で「事実」を明らかにすることもできない、という状況で、世間に歴史ファンが多いことと旧来の人文系の主張だけを頼りに歴史学や歴史教育が生き延びられるとはあまり考えられない。日本史の高度さ、面白さを存分に感じさせてくれた昨日の報告を聞いたあとだけに、そういう焦燥感が余計に募った。

で、プロ野球交流戦は今年もパリーグの勝ち越し。金・努力・智恵の全体から見て当然の結果であるが、まずはめでたい。
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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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