カンボジア・ベトナム報道の思い出

留守中の毎日新聞を見ていて、8月28日朝刊3面の「金言 30年後の謝罪」という西川恵・客員編集委員のコラムが目に入った。
1975年4月、クメール・ルージュのプノンペン占領時にぎりぎりで出国したフランス人神父フランソワ・ポンショー氏が、クメールルージュの圧政を批判し難民の脱出支援、脱出した難民からの聞き取りなどを続けたのに対し、左派の影響力が強かった『ル・モンド』が最初のうちクメール・ルージュを解放軍として扱い、虐殺の噂についてもアメリカの悪宣伝としていたそうだ。

それでも76年2月に同紙はポンショー氏に依頼して長文の寄稿を2日がかりで掲載し、その後徐々に報道姿勢を軌道修正したそうだ。2005年、『ル・モンド』は社説で「我が社が(クメールルージュの)虐殺に目をつぶっていたことは否定できない」と謝罪したそうだ。反米左翼の「アメリカはいい気味だ」という感情だけでなく、アルジェリア戦争後に民族解放闘争支持に転じたことの影響もあったのだろうと金子氏は述べる。

以下は私の蛇足。
日本でも「朝日=社会党系知識人」に同じ傾向があった。78年末に、クメールルージュの虐殺や国境侵攻にたえかねたベトナムがカンボジアに攻め込みクメールルージュ政権を追放したときですら、著名なニュースキャスター出身の国会議員、中国学者などがポル・ポトを擁護し、「虐殺はベトナムがやっているのだ」と公然と発言した。連続しておこった中国軍のベトナム侵攻(中越戦争)について、この人々の発言はとても歯切れが悪かった。
90年代にドイモイ・ベトナムと日本の関係が改善したとき、朝日や旧社会党もベトナム友好に転換したが、それ以前の「中国盲従」ともいえる姿勢についての総括があったかどうかは不勉強で知らない。
現在の右からの朝日攻撃は論外なのだが、それを知りつつ私がしばしば朝日=旧社会党的な考えにイヤミを書くのは、このときの不信感が大きな原因になっている。
なおこの姿勢の背景は、「親中」だけだとは思わない。やせてもかれてもインドシナ3国の旧宗主国であるフランスと違い、「ベトナム戦争ブーム」が去ったあとの日本社会の大勢が、インドシナの状況を「なんにも知らなかった/知りたくもなかった」ことも大きいと、私は考えている。

ところで、78~79年にクメールルージュとその後ろにいる中国を遠慮なく批判した新聞が2つあった。産経と赤旗である。
60年代に「自主独立路線」を固める過程でソ連共産党とも中国共産党とも断絶していた日本共産党は、北爆下に留学生を送り込んでベトナム語を覚えさせた(最初はハノイで勉強したが途中で爆撃を避けて地方に疎開したとも聞いた)。おかげで赤旗の報道はある時期まで、ベトナムに関しては圧倒的なレベルの高さをもっていた(中越戦争で取材中に殉職した記者もいた)。ただし70年代後半から80年代前半のベトナム国内での社会主義化の失敗や難民問題、世界での孤立などについて「正義のベトナムが米中日のいじめにあっている」式の書き方を脱するところまではいかなかったのだと思われるが、80年代後半のドイモイの進展についての報道はなかなかのものだった。当時の一般各紙のベトナム報道は、ベトナム戦争世代より若く予備知識もないバンコク駐在の記者がたまにやってきていい加減なことを書くのが普通だったのに、赤旗記者の方は長くベトナムに住んでいて政府・党内にも知り合いが多かったから、基礎的な理解度に歴然たる差があったのだ。

さて、産経の方だが、当時中国に媚びなかったのはさすがと言いたいところである。ただし、80年代後半から第二次世界大戦末期のベトナム北部・北中部で起こった「200万人餓死」の問題(ホー・チ・ミンの独立宣言にも書いてあるが、北ベトナムが参加できなかったサンフランシスコ条約等では未解決)が日本で話題になった際には、それを根拠のないでっち上げと書いた記者がいた。とりわけ問題は、そのときにベトナム共産党のことをオンカー(クメールルージュの支配機関のこと)呼ばわりした記事があったこと。ソ連型とクメールルージュの組織形態の違いなどまったく思慮の外なのだろう。

こういうところの不勉強のひどさは、ひとつ下の記事や安保法案報道でも露呈されたように、今も変わらぬ産経の伝統ということか。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセス・カウンター
あなたは
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR