関大シンポ

「10月戦役」第一弾の関大シンポ。
周辺の視点で中華世界をどうとらえ直すかがテーマ。
例によってプログラムを詰め込みすぎで、時間を無視して延々としゃべる報告者もあり、という点は問題だったが、中身はいろいろ面白かった。関大COEの「本中華」でない研究員の思いがよく出た会でもあったと思う。

われわれが共有すべき考え方として、
・周辺側の、中心との関係だけを見た「主体性」「固有性」の本質論的ないし実在論的主張はうまくいかない(タマネギの皮むきにしかならない)。
・「自律性」「独自性」が主張できるとすれば、それは中心のモデル(参照系)をlocalize (provincialize)ないしappropriateして「自己形成」をおこなうか、中心由来でない要素も含めた「別のパッチワーク」をどう作っていくかなどに示される。
・「独自性」はまた、周辺同士の関係・相互作用、中心からは見えない「周辺の向こう側」との関係などに示される。
・深い周辺研究は中心の側が一枚岩でないことにも気付かせるが、それが中心の側の「多様性の中の統一という自己満足のロジック」に回収されないように不断の注意(闘争?)が必要である。

といったまとめができるように思われる(報告者・コメンテーター全員が一致したとはとうてい言えないが)。
李成市先生、韓国の鄭多函さん(朝鮮王朝初期の女真・対馬との関係を「交隣」の概念でとらえる通念を批判した)とはとくに意見が一致した。李先生の著作で私の「脱中国のための中国化」という概念を鄭さんが読んでくださっていたと知って、飲み会でも話がはずんだ。ほかにも、韓国の梁先生の高句麗・渤海の宮殿と漢~六朝の宮殿の関係のお話はタンロン研究の参考になったし、石井龍太さんの近世琉球の瓦が明ではなく南宋代浙江省の瓦(中世前期博多遺跡で出ている)と文様がそっくりといった話も面白かった。どちらも、「中国モデルの導入」(中国化)は同時代のモデルだけを導入するとは限らないというポイントにかかわるものだ。

終了後にカフェダイニングで食べたスコーン。頭を使ったあとは甘い物が必要だ。
P1050535.jpg


ただし、シンポの一部に「一週遅れ」の議論も混じっていたのは残念。たとえば「まだみんなが冊封体制論を信じている」ことを前提とした冊封体制論批判などもあった。鄭さんは実在論的かつ朝鮮王権中心主義的に「朝鮮型華夷秩序の形成」を論じたわけではないのだが(議論の目的は一国史と「○○中心史観」一般の脱構築。かわりに重層的かつ多者間の相互作用の歴史を描きたい)、日本人コメンテーターがことごとくそこを誤解した点は、「視点と論じ方」の問題について、この領域の研究者が(韓国でも同様だと言っていたが)相変わらずナイーブな考えしかもっていないことを示した。
*ちなみに、鄭さんの朝鮮王朝初期の「辺境勢力による王朝樹立と軍事力、歴史の創造」という話は、八尾隆生さんの黎朝前期政権の研究とも重なる論点をたくさん含んでいて、その点でも興味深い。

あと一点、われわれがもつべき考え方としていつもの大風呂敷を広げるとすれば、「主体性」にこだわる考え方(その背後にある「主体-客体」という二分法)は、「文には主語がなければならない」という考え方と同様、近代ヨーロッパの「特殊な」思想を反映しており、必ずしも一般化できないという大きな問題があるだろう。ヨーロッパでも、ラテン語を見たらわかるように、主語が必須になったのは近代語になってからであり、ロシア語は今でも主語が必須ではない。中国語もたぶんそうだが、日本語やベトナム語でも主語は必須でない(日本語ではむしろ「文の主題」ないし「場」が必須である)。現に不平等や暴力によって自己決定権を奪われている人の前ではいいにくい面があるが、個人でも国家でもそれ単独での「主体性」にあまりこだわると、かえって「敵の論理に引きずられる」ことになる。また、「主体性を発揮できなかった個人や集団」は「自分自身に問題のあるダメなやつ」という話になりかねない。

これまた鄭さんや李先生と意見が一致したと思うが、今回扱った「中心-周辺」という問題は、「植民地時代」をどう理解するかという問題との共通性がきわめて高い。その意味で、(再三言っているように私は「カルスタ」や「ポスコロ」が好きでも何でもないのだが)、鄭さんんが使ったapproproation(本来的に自分のものでないものを、自分のものにしてしまうこと)のような、今や当たり前の概念をごく一部の参加者しか知らなかったというのはまずい。

うん、おもしろかったにゃん。




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセス・カウンター
あなたは
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR