なんでも民間に合わせればよいか?

日本人やアメリカ人は単純な考え方が好きである(日本人はあいまいだ、というのは結果としてそうなっている、なってしまったものを変える実行力がない、などの問題であって、考え方自体は単純大好きなのだと、私は思う)。

役所や公務員がやることで民間とちがうことは、なんでもかんでもおかしいと言われるのがその例である。大阪府の「教育基本条例案」についても、そういうコメントをしている大学教授がいたが、役所や公務員はそんなに怠慢で非常識で、民間企業はそんなに勤勉で優秀だろうか。

東電上層部の愚鈍・非常識はあえて言うまい。
大学に相手の迷惑も考えずマンションの売り込みの電話をかけてくる会社がよくあるが、インテリ相手の売り込みにどの社員もどの社員もまともな敬語が使えないヤツばかり繰り出してくるような会社が淘汰されずにやっていられるのをみると、民間も案外ラクチンなんだなと思わざるをえない。同じ大手保険会社からの3通の文書が、担当によってそれぞれ違った名前や住所で届いた(民営化前の郵便屋さんはこういうのをちゃんと届ける優秀な人たちだった)なんてのもあった。先日、私の学術論文の一節を模擬試験に使いたいので著作権使用の許諾をくれと連絡してきた大手有名予備校があったが、私の論文のタイトルは間違っているし、引用・設問のしかたも私のその論文での主張や教科書記述の内容と矛盾する部分があって、はっきりいって「営業妨害」だった(この予備校の模試は大勢が目にする)。抗議して訂正させたが、タイトルはともかく内容の問題は説明に時間をとられた。大学入試でこんなことがあったら、どれだけたたかれるか。実は「受験業界」も能天気でいいかげんな面があるのだ。

また、「民間のやり方に役所も従うべきだ」と主張するひとたちは、たとえば日本の企業が世界に名高い「護送船団行政」や「補助金」の恩恵をたっぷり受けて大きくなったことについて、「そうではない」という証明をする義務がある。たとえば財界人は「役人の干渉にどう抵抗したか」は語っても、「役人や政治家をどう利用したか」は語らない。これはアンフェアである。

話はとぶが、大阪府の「教育基本条例案」も、説明義務を果たしていないことが多い。
第一に、府立学校の教員は労働基本権を制限されている。要するにストができない。クビにできるようにするなら労働基本権をフルに保証しなければ憲法違反だと思われるが、その点の説明を聞かない。そういうことが許されるなら、学者である私としては、「議員を議会出席率、議会での質問回数などで評価して、2年連続D評価なら自動的にクビにする」という制度を要求したい。私が圧倒的な支持率を誇る知事だったら,「議員に毎年法律と教養のテストをして、成績の低い者はクビニする」という条例も通したい。もちろんこんなのは憲法違反である。今の大阪府の条例案はしかし、これといい勝負である。

つぎに、民間並みにしろというなら、好成績の専門職にはびっくりするような高給をはずむ仕組みがなければサギである。学テの平均が全国一になり、東大合格者が急増したら、「カリスマ教師」には年俸1億、とかいう待遇をする用意はあるのだろうか。賢い民間経営者は「アメとムチ」をうまく使い分けるものであって、「ムチだけ」強制し反論する者は「工夫が足りない」などというのは、「大日本帝国」の官僚たちと同じである。民間の優越など語る資格はない。

第3に、教師を締め上げてエリート教育をさせたら小中学校の学力テストの平均は劇的にあがるだろうか。
上位10%の生徒には青天井で得点を与えるとかいう仕組みなら別だが、100点以上の点を取れないテストでエリート教育をしても、たいして平均は上がるまい。まして大阪の問題は、膨大な低所得層などを背景として、「下の方」の成績が低いことだと言われているではないか。ここをどうするのか、知事や「維新」はだんまりであるように見える。「平均値」の計算方法を忘れたのだろうか?

第4にこの条例案にかぎらず「校長を公募」というのが好きな人がよくいる。しかし、もともと企業勤めをしていた人が異業種の「企業」に移って成功した例はいくらでもあるだろうが、一般企業人が(仮に私立学校であっても)教育という業界に移ってそう簡単にうまくいくものだろうか。教育(とくに義務教育)が広く政府・自治体に委ねられているのは、教育が警察や防衛とならんで、民間企業と異質な部分が大きいからではないのか。少数の例外はあっても、公募した校長がみんなうまくいくぐらいだったら、不祥事多発の大阪府警もいっそ民間人(専門家つまり暴力団?)を導入すべきだとならないか。このへんも、無理を遠そうとする提案者側に、教育と警察・防衛は違うと説明する義務がある。


人間は単純だにゃあ
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No title

公務員の給与が下がれば、それを見た民間の給与が下がるという悪循環を解らないのが、現在の大阪府政だと思います。

Re: No title

> 公務員の給与が下がれば、それを見た民間の給与が下がるという悪循環を解らないのが、現在の大阪府政だと思います。
コメントありがとうございます。その通りです。「国立大学の授業料は私学に比べて安すぎるから上げろ」となったのは30年以上前のことですが、結果は国立が上がれば私学も上がり、全体として「教育費が高いことによる少子化」を促進しただけでした。

「税金が高すぎるから企業が海外に逃げる」もおんなじだと思います。
プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
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