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民衆反乱の歴史

今夜は堺のベトナム総領事館で独立記念日の祝賀パーティにご招待。
マイナーな国の研究で「教授」になると、こういうところではけっこう尊重される(冨田健次先生ももちろん見えていた)。
出席者は各国の外交官を別とすれば、圧倒的に財界と自治体関係者と思われ、それはある意味当然なのだが、文化・学術交流やNPOの関係者ももっと増えてもいいだろう。これは総領事館の問題でなく、そういう人材をごく少数しか育てていない(政府間で合意している「戦略的パートナーシップ」に見合う数にまったく達していない)日本側の問題だ。

今春新たに着任したティン総領事の挨拶


ティン総領事(肩書きは大使兼総領事とのこと。ただし東京のビン大使とは別)の挨拶は、英語でおこなわれた(領事館員による日本語訳つき)。流暢とは言わないが、慣れた調子の聞きやすい英語だった。各国の外交団が来るこういう場所ではこれが慣例だが、今までの歴代総領事はベトナム語でやっていたように思う。国際社会への再統合(ベトナム語でhội nhập)への情熱のあらわれだろうか。

ここから脱線。昨日書いたようにベトナムの独立記念日は「8月革命」成功の記念日なのだが、現在の歴史教育で忘れ去られかかっているのは、民衆反乱とか暴動の歴史である。

昨年ハノイで開かれた独立65周年記念式典の写真。たぶん1946年12月19日の抗仏戦争(第一次インドシナ戦争)開始時の写真が映されているのだと思う。
P1010095.jpg

このことに言及しようと思ったきっかけは、先週の土曜日に開かれた京都の教員の読書会である。岩波の『東アジア近現代史』第1巻の各論文を輪読しているのだが、次回の論文を決める際に、太平天国に関する論文(太平天国がユダヤ教・キリスト教の不寛容性に強く影響されたという菊池秀明論文)を読もうという案が、あるベテランの先生--この会には初参加--の「この論文は視野が狭い」という意見で否決された。

間違っていたら失礼なのだが、この世代の民主教育を担った先生方は、一方で民衆反乱に思い入れがあり、他方でキリスト教に進歩的・平和的なイメージを抱いている(右翼の西洋帝国主義批判がしばしばキリスト教文明の侵略性を説くのに対し、左翼は資本主義の侵略性を強調するばかりで、キリスト教社会の「度し難さ」に言及することは稀である。そういうのは「土台-上部構造論」のはき違えだと思うが)。したがって「太平天国の悪しき面がユダヤ教・キリスト教の影響に由来する」といった見解は受け入れがたいのではないか。

京都の読書会では別の授業実践報告に関連して、世界システム論や江戸時代日本の達成の強調が民主教育のベテランたちに批判されたという話もあった。これも再三書いている通りそういう先生たちの「非弁証法的思考法」にあきれざるをえないのだが、それでも「世界経済」をとらえる視角はずいぶん現場に広まってきた。

それにくらべて、民衆反乱の理解・教え方は、社会史やポスト・モダン的研究でいろいろ新しいとらえ方が提起されているものの、教育現場で活かされているとは到底思われない(世界経済研究が反乱研究とうまく結びついていないという問題も大きい)。「右」は「不逞の民の暴動」など否定的評価しかしないだろうし、「左」は相変わらず客観主義的・進歩主義的・理性主義的説明に安住し、民衆反乱の主観的論理や戦略、それに「消極的非協力」「逃げる」「自分だけいい子になって権力に協力する」などの選択肢を含めた総合的な説明を怠っている。現在のようなひどい社会で、「進歩的な闘う民衆像」だけを称揚してそれ以外を無視するなんて、昔の言葉で言えば「極左冒険主義」じゃないだろうか。

それはさておき、清末の民衆反乱についても、いい研究はたくさん出ている。太平天国について言えば、第一に読むべきは、もう15年ぐらい前になるが東大出版会のシリーズ「アジアから考える」の「長期社会変動」の巻に上田信さんが書いたもの。18世紀以降の中国の人口急増と山地の乱開発の壮絶な帰結として太平天国をとらえている(これは、最近のグローバルヒストリーに見られる、近世中国およびアジアの経済成長一般を過度に美化する傾向に対しても、警告としても読まれるべき論文である)。これで社会経済的基礎を押さえ、他方で「毛沢東の恐ろしさの歴史的・文化的背景を探る」という問題意識を持てば、菊池論文も興味深く読めるだろう。中国農民社会の負の側面を強調する(結果的に清朝や帝国主義を美化する??)そうした研究はよろしくない、という感じ方がもし今でもあるとすれば、それは(まさにスターリン主義的な?)学問の否定につながりかねない。

今夜のクラシカ・ジャパンはショパンのピアノ・コンチェルトの1・2番など。
マリーンズはどこまで負けるのだろう。



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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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