史学会125周年シンポシリーズ「東北史を開く」

土曜の最終1本前の東北新幹線で福島に入り(朝イチで大阪や名古屋を出ても真庭合わない)、福島大学で開かれた史学会125周年シンポシリーズの「東北史を開く」に参加して、昨夜の最終1本前の新幹線で大阪に戻った。強い雨にはあわなかったが、おかげで月曜午後の授業は休みにならず、やや疲れた。

シンポはなかなか面白かった。とくに考古学の藤沢敦氏(東北大)の、これまでの学界が「蝦夷と倭人の境界を問う視角が、蝦夷というくくりの流動性や人為性を認めながら、「倭」という「民族」ないし「文化」については素朴本質主義で実体視してきたという視角の問題を論じたのが面白かった。現代考古学の方法ではたとえば「弥生文化」というのは客観的に定義できない-「日本史」という枠組みがなければ「日本列島中央部をおおう弥生文化」を想定する必然性がない-という指摘は、なるほどと思った。(そんなに広い範囲に統一的な文化を考えるのは不自然だということを強調するために)日本列島はそんなに狭くないというのを、ヨーロッパや古代中国の歴史地図に重ねて日本列島の地図を映し出す方法は、教育現場で応用できそうだ。氏は本質主義でない民族論など理論的な考察の一方で、というかその前提として考古学的事実を正確に検出する方法を重んじており、「理屈をいうやつは実証ができない」という偏見がウソであることがよくわかった。

ついでに休憩時間に、上のような問題を生み出す「日本史」(「東洋史」「西洋史」と3分された)という制度(専攻)を壊すべきかと質問したところ、資料を扱うトレーニングが地域ごとに異なる以上、その区分を壊すのは間違いだと明確に答えられた。先日の阪大での史学会125周年シンポで私も、阪大は歴史学全体を見通す訓練を強調しているが、それは専門分野(専攻)ごとの強力な専門教育と両立させようとしているのだと述べたところである。ちなみにお察しの通り、私のこの議論は『新しい世界史へ』など羽田正氏の主張への反論を意図している。

ほかの報告・コメントや、アンドルー・ゴードン氏の講演もそれぞれ勉強になった。報告は東北の古代・中世・近世各1本、つまりは「日本史」の枠内でおこなわれたが、趣旨説明の柳原敏昭さんが言われたように「東北を無前提にひとまとまりに
(しかも中央に対する単純な辺境や被害者に)しない」「東北史を世界史に開く」などの観点も、それぞれに活かす努力がなされていた。コメントが3本とも外国史だったのもそのあらわれだが、ただしヨーロッパ2本と中国(中央ユーラシアの視点を重視した中国史だが)1本という陣容は、地域の選定としてあまりに保守的とツッコムこともできた。それぞれのコメントが悪いという意味ではなく、面白い点もいろいろあったが、たとえばヨーロッパのナショナリズムと言語の関係の多様性についての原聖氏のコメント(とても明快でヨーロッパ史について勉強になった)は、東南アジア史でもよく議論されている事柄であった。そういう場合に日本のシンポでは100回のうち99回は疑うことなくヨーロッパ史の話題が提供されるが、それでいいのだろうかという問いを、私が執拗に投げかけていることは、このブログを見ているみなさんはご承知の通りである。

なおコメントと討論で出された「中心と周縁の関係は可変的」「辺境は線でなくゾーン」などの論点は、世界史では新しくない。感心したの討論のなかでのゴードンさんの意見だった。歴史に現在を投影しないようにすべきだという意見をやや素朴客観主義的に提出した論者があったのに対し、ゴードンさんは「現在を離れた客観的史実の探求など不可能である。それよりふた昔前の現在、一昔前の現在などを比べてみるなどの方法によって、現在の視点を相対化することが大事だ」と言われた。また東北を辺境・被害者とみる視点について、「東北が周辺の位置を強要された、被害者であるという点を忘れるのは適切でない。しかしそのうえで別の側面も見るようにすべきだ」と言われた。いずれも、日本の学界や教育界、あるいは運動の世界は、こういうことが当然の前提になりにくい面があるが、大事な視点である。

ともあれ、いろんな方にお会いできたことを含め、収穫の多い会だった。史学会を含め、主催者の皆さんに感謝したい。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセス・カウンター
あなたは
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR