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特集/歴史教育の担い手をどう育てるか

連休が明けて出勤すると、『歴史評論』10月号が届いていた。表記の特集。
「教員養成における専門教育の課題」「歴史教育と専門的学知」「現行教員免許制度下における教員養成のあり方をめぐって」「教員養成の立場から歴史教育を問う」「だれが歴史教育を「暗記」にするのか」「改憲的政治下の教育と歴史教育者」の6本の論考が掲載されている。
一昨日の史学会シンポとも重なる内容がいろいろありそうだ。

とりあえず山田智志氏の「だれが歴史教育を「暗記」にするのか」に目を通した。

よくある自分の専攻分野ないし得意分野の授業実践を雑然と羅列した「実践報告集」にせよ、一人で世界史全体を書いた結果分野ごとに濃淡の差がある書物にせよ、教員の一貫した歴史認識を保証しない。それでは1回1回の授業を面白く聞くことはできても、一貫した歴史認識を培うことは不可能である。従って生徒も教員も暗記に走るのは当然だという指摘は、まことにもっともである。残念ながら山田氏は、(教育系学界と縁の薄い)阪大歴教研の実践を--専門と違う発表を意識的に積み重ねてきた点など--ほとんどご存じないようだが、われわれが主張し実践してきたのも、まさにそこに関わるものである。冒頭で山田氏が言うように、他の多くの科目も大量の暗記を要するにも関わらず、歴史だけが暗記教育のように言われるのは、説明レベルの一貫性・論理性が極端に低く、あたかも英語の授業が単語の暗記に終始するような状態に陥っているからである。

しかし「歴科教」や「歴教協」はどうしてこういうオチにしないと気が済まないんだろう、というのが、最後に現代東アジアの歴史をめぐるナショナリズムの衝突にふれた箇所である。
現在歴史教育が提供すべきは、この衝突を「客観的」に「冷静に」見る姿勢、それは自分ひとりを局外に置くことで現実の責任から逃れることが主目的となりかねないきわめて危険な姿勢では決してなく、むしろその渦中に責任ある態度で主体的に飛び込んでゆき、その渦中に身を置いて初めて客観的な立論ができる、そのような思考力の養成なのだはなかろうか、と述べたうえで、白井聡『永続敗戦論』や與那覇潤『中国化する日本』を、「このような主体性と客観性との桎梏から逃避し、自らが立脚する社会すら他者化しシニカルにとらえる」「安易な世界観」と断罪するくだりは、
まことに正しく立派かもしれないが従えない。たとえば「そのアジアに飛び込んでいく学生の頭に<ベトナムは入っているか>」と尋ねる私の問い--それはベトナムだけ入れれば答えになるような単純な問いではないですよ--に答える能力がどうやったらはぐくめるかという、私にとって絶対に譲れない問題については、何も言っていないに等しいからである。

なお、「毎度おなじみ」のこの「主体性」への過剰な思い入れが、「いかなる言語にも必ず主語と述語(動詞)がある」といった古い古い言語観など、19世紀的人間観や物質観にもとづいていると思われることは、拙著『わかる歴史・面白い歴史・役に立つ歴史』でも、去年の歴研大会コメントでもちょっとふれた。

そして、歴評で毎度見られる「自分がリテラシーを欠いているためによくわからないもの」への違和感を、倫理的判断のかたちで表出するやり方は、--「実証主義陣営」でも似たようなことをする人はたくさんいるにせよ--失礼ながら、「弁証法的思考」を学んだ「変革の歴史学」を志す者のやることだとは思われない。やったらそれは「ヘーゲルの逆立ち」ではなかろうか。

毎度の悪口のついでにおとといのシンポの聴衆について書けば、「教員養成を含む大学教育」がテーマだと言ってるのに、教員養成を含めた中等教育部分に質問が集中してしまったのは、いささか遺憾である。どこまでいっても「歴史教育」というのは初中等教育のことで、大学は「研究の場」だと、みんな思っているのだろうか。私が考えた報告・コメントのラインナップが高校教育の方に議論を誘導してしまったと言われれば反省するしかないが、大学専門教育のあり方を議論するには、高大連携という枠を外さねば不可能なのだろうか?


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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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