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ドイツ語やイタリア語が第2外国語では東洋史は専攻できないか?

今日の2限はリレー講義「文学部共通概説」の担当が回ってきた。「1回生配当の学部科目」という珍しいカテゴリーに属し、新入生の先週選びや研究の手引きにするための講義である。文学部の1回生は1学期に全員が受講するのが原則で、週に3コマ開講されて専任講師以上の教員の約半分が出講する。学生はどれでも好きなものを聞いて、学期末にうち2人について指定されたレポートを提出する義務がある。

4月だと170人ぐらいいる新入生がほとんど全員出席することがあるが、今日は70人ほどが来た。
講義の内容はほぼ例年通りで、
1)自己紹介
2)日本の歴史学・歴史教育の問題点と「阪大史学」の特徴
3)阪大東洋史のすぐれた仕組みと人材養成の実績
4)阪大文学部で専修や研究テーマを選ぶ際に考えるべきこと

などを話した。自己紹介では毎年1つ、自分の研究テーマの紹介を入れており、この2~3年はタンロン皇城遺跡の発掘の話をしていたが、今年は陳朝大越の初代皇帝は誰か、というテーマで、「初代は通説の太宗ではなく、その父で「実権のない上皇」になったと言われていた太祖であるが(ロシアのポリヤコフ説を承認)、しかし李朝・陳朝は東南アジア的なツートップ体制をもっており、太宗も父の即位と同時に「ナンバーツーの皇帝」として「即位」している点を、皇帝は一人に決まっているという思い込みがあったためにポリヤコフは見逃した、碑文の記述から私がそれを証明した、しかしたぶん1340年代に皇帝は一人だけという中国的な常識に従って歴史が書き換えられ、正史の世界ではその事実が抹殺されたらしい」という話をした。系図の好きな学生若干名が面白がってくれたようである。

なお今年は思いつきで、パワポの最初に、「今日の話をたとえると」として

(サンデル教授の白熱教室風)-混雑した電車の中で、皆さんは座っています。そこにある駅で、老人や体の不自由な人が何人も乗ってきました。座っている乗客が全員席を立つ必要はありません。しかし、だれも席を譲らないのは正義に反するでしょう。そこであなたならどうしますか?
(広告会社のインターンシップ風)-日本プロ野球の各球団・球場の宣伝をまとめて請け負いました。契約では全球団合わせた観客動員数を20%増やさないと、報酬が支払われません。あなたならいつもほぼ満員の甲子園球場(阪神タイガース)や東京ドーム(読売ジャイアンツ)と、お客の少ない大阪ドーム(オリックス・バファローズ)や西武ドーム(西武ライオンズ)のどちらを担当しますか?

という2つのたとえ話をした。一つ目は以前も使ったことがあるが、二つ目は数日前に思いついた。4)のところで毎年やっている、この期に及んでなお「やりやすい(閉じた)日本研究」と「エレガントな(進んだ、お手本としての)ヨーロッパ・アメリカ研究」が人文系の教育・研究のなかで圧倒的な比重を占める19世紀的状況を再生産し、中国はじめアジアに対する理解の圧倒的な遅れ・不足には他人事として目をつぶるか、それとも自らアジア(中国・韓国だけに限らない)など新しい領域を選び、世界と日本を変えうる、より新しく必要度が高い研究(入り口は日本研究、西洋研究のなかにもたくさんあるが)をするか、それが諸君が求められている選択である、という話の伏線としてあげたものである。

これは西洋史・日本史に対する誹謗中傷のようだが、私はそれらの研究をするななどと言っていない。バランスを問題にしている。しかも、アジア研究をするにに西洋史や日本史からの入り口があることも、植民地研究の例をあげて説明した。アフリカや西アジアの歴史研究をしたかったら、東洋史と西洋史とどちらに所属すべきかという例年出る質問にも、「どちらでも可能だし先輩も両方にいる」と答えた。問題はひとえに各分野の比率である。

またレポート課題は例年と同工異曲なのだが、

あなたが高校教員や高校生の親になったとして、もし生徒や子どもが「アジアの遅れた国々の地理や歴史などは、自国である日本や進んだ欧米諸国とちがって大きな意味をもたないしつまらない。自分にも関係がない。だから勉強したくない」言ったら、どうやって勉強するように説得するか、この講義の内容も参考にしながら書け。上の意見のどの部分に反論するかを明確にしながら、なるべく複数の説得のパターンを書くこと。

というのを出題した。

出席カードに自由に感想を書かせたが、「研究者志望」「教員志望」などでそこに至る道筋や歴史学のあり方にについて参考になった、自分も修士号を取ってから就職しようと思う、など狙い通りのものや、「中国が嫌いなら研究しろ」と言われてハッとした、など挑発にうまく乗ってくるものもあった。「日本の歴史学が世界トップレベルだと聞いてうれしかった」という感想を書いた学生は、そこで愛国心に浸るだけでなく、他方での存在する弱点(いつもの話をした)にも着目しながら、世界トップレベルの中身を発信する方法を考えてくれればいいだろう。

自分は田舎に帰って就職するつもりだったが、そこにアジア系労働者がたくさんいることに気づかされ、アジア史の重要性がわかった、といった感想もあり、これは東洋史に進学するかどうかと無関係に、共通認識にしてもらわないといけないことである。「親に東洋史は就職に不利だと反対されていたが、これで自信をもって東洋史に進学できる」というのもあった。このブログに何度となく書いたが、いい加減にこの間違った思い込みは是正してもらわないと、日本のためにならない。

「ここまで聞いたなかでいちばん刺激的だった」「ほかの回にもこういう専修全体の位置づけを話すようにしてほしい」などは、私がうれしがるだけでなく、授業全体の改善に役立てるように、取りまとめ責任者に伝えるべきだろう。

さて、専修を決めるのは今年の秋だが、今日の授業の効果がどのぐらいあるだろうか。最近は、「入学時にはほかの専修に進むつもりだったが、桃木先生の挑発に乗って東洋史に決めました」という学生が毎年1人ぐらいはいるのだが。

ところで出席カードに「自分が第2外国語で(東洋史には使えない)ドイツ語を選んだのが残念だ」「第2外国語はイタリア語だが東洋史の研究に使えるだろうか」という感想や質問を書いた学生もいた。
中央アジア史ならドイツ語はもちろん、イタリア語だろうがハンガリー語だろうがダイレクトに使えることは、もっと宣伝せねばいけないだろう。その他、グローバル化というのは人文学の場合、「みんなが英語を使うようになる」方向もあるが、「いろいろな言葉でいろいろな地域に関する論文が書かれるようになる」ことも意味する。世界の大半の地域について日本語の本や論文があるが、同じような状況が韓国語で出現しつつある。ドイツ語でも、東南アジアのような従来縁が薄かった地域の研究が増加している。ということは、今までのシルクロード史のようにどの言語で書かれた先行研究でも一人で読むといことはもはや不可能だが、逆に学界の協力体制の中で、いろいろな言語の使い手に活躍の余地が出てきたということにもなる。

それから、近代世界システムや近世アジア海域史にとって、今やオランダ語史料が巨大な位置を占めていることは、今さら言うまでもない。オランダ語を習うには、先にドイツ語を習っていると有利である。
また、近世以降のグローバルヒストリーでは、宣教師も重要な役割を果たしており、バチカンその他に保存されているラテン語文書の研究(狭義のキリスト教史や布教史以外の歴史のための研究)が活発化しているが、バチカンに通って本格的な研究をするなどとなったら、イタリア語もできた方がそれは有利だろう。というようなわけで、直接は使わない第2外国語でも、間接的に活かせるケースは少なくないはずだ。東洋史は第2外国語で終わりでなく、必要に応じて第3、第4と外国語を学ぶ仕組みがあるのだ、それは研究者以外の国際人にも役に立つのだ、といつもの話をしたが、阪大はせっかく大阪外大と統合したのだから、多言語を学んだ人材が輩出する条件には恵まれているのである。


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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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