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神奈川の研究会(2)

神奈川の研究会2日目は南アジアとイギリスの話。
「世界史をどう教えるか」でも書かれていたが、インド史(南アジア史)も大きな枠組みを見直す必要があるところだ。
・今日の論点(秋田講義)は一方的な破壊・搾取という植民地経済史の見直し(現代インドの経済成長を理解するために必要)。1860年代以降にインド綿紡績業(かつての手工業でなく機械工業)が勃興する。1919年にインド政庁は対イギリスを含む関税自主権を獲得している。1930年代の綿花輸出・綿布輸入の相手はイギリスでなく日本。これらの前提として、イギリス人やイギリス軍はごく少数で、多数のインド人「協力者」によって植民地政庁は維持されていたから、本国が好き勝手にできたわけではないこと。などなど一般に知られていない話が満載。
イギリスの悪どいところはむしろ、本国への送金の価値を最優先としてルピーを高く維持したこと(インドからの輸出には不利になる)、第二次大戦時のインドからの動員・物資徴発の対価としてポンド・スターリングを引き渡さず、裏付けなしに増刷したルピーを散布してインフレを引き起こしたこと、など通貨・金融面にあり、マンチェスターの産業資本はけっこう犠牲にされているということだ。

・ほかに「因習に苦しむインド」も問題だろう。具体的事項として、「カースト制」や「ヒンドゥー教」を古代からずっとあったものと教えていてよいのか? それらを英領下の「創られた伝統」とは言わないまでも、英領時代にそれらが「再編・定着」させられたことは教えるべきだ。
・ジンナーやパキスタンは「分裂した悪者」というイメージの強い「国民会議派中心史観」も是正を要する。これを支えているのが、「”ヒンドゥー教”はインドの民族宗教」など、「インド民族」が古来存在したかのような誤解である(ヒンドゥーは「南アジア世界」および「東南アジア世界の一部」にまたがる世界宗教である)。東京外大や阪大外国語学部には南アジアの言語としてヒンディー語とウルドゥー語の専攻があるのも、「ヒンドゥー教のインド」だけで南アジアを理解してはいけないことを示す。なお、ムガル帝国を理解するには、イスラームだけでなく、ウルドゥー語の成立に見られるペルシア世界の影響も重視すべきである。蛇足だが、サファヴィー朝もオスマン帝国のかげで軽視されているが、17世紀アユタヤ朝やオランダ東インド会社との活発な貿易など、大帝国だったことを理解しておきたい。
・主に前近代だが、北インド中心のままでよいのかという問題もある。チョーラ朝のような超大国がまともに教えられないなんて、とんでもないことである。

午後は中村薫先生、浜松のM先生といっしょに栄光学園の研究会を抜けて、東京外大へ。
「高大連携東南アジア教育科研」の研究会である。

今日の報告は根本敬さんが上智の東南アジア教育の話。それから都立高校で教えてこられた関根秋雄先生の授業実践の報告。どちらもアジア・太平洋戦争の話を詳しく教えられているのでけっこうだが、「またこの話か」と反発する生徒・学生は皆無で(上智の場合、外国語学部はともかく教養教育で)、「まったく知らなかった」という反応ばかり、というところがちょっと信じられなかった。知らないのは知らないだろうが、東南アジアで日本軍がないをやったかを受け止める以前に、「文句ばかり言ってくる中国や韓国にムカツク」「歴史はしょせん勝者が作る者でもので、客観的な歴史などありえない。であれば日本は日本人の歴史を教えるまでだ」といった考えを刷り込まれた若者が本当にいないのだろうか。阪大にはたくさんいるのだが。 

それはさておき、上智でも--上智でも!--石井米雄先生の時代と違って東南アジアの歴史など学ぼうとする学生は減っている(現代的課題は多いが)とのこと。これについて、世界史教育のIT先生が「東南アジア」という枠組みで歴史を教えることで見えるものと見えなくなるものはなにか、と質問されたのは、よくぞ聞いてくれました、というところ。「見えなくなるもの」の自覚がなく、「見えるもの」を現在の他地域の研究の(最新水準の)魅力に負けないレベルで語れない点に、東南アジア(史)に関する研究・教育の苦境の根源がある。東南アジア史の仲間たちに、このことを強く訴えたい。

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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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