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東洋史の卒論相談会

今日は4回生の卒論構想発表会がおこなわれた。
毎度のことだが、まだみんな大まかな先行研究のまとめが精一杯で、具体的・個別的な作業の切り口を見つけるところには行かないか、そこははっきりしていても漢文などの資料読みがひどかったりする。

法学なら法律の条文のどれを使うか、経済学ならどの計算モデルを使うかなど、社会科学では作業内容がはっきりしているかもしれないが、人文学はなんでもありの中から自分なりの問題を見つけなければならない学問だから、経験の少ない学生だと、そもそも検討すべき問いが自分では見つけられない。

私がいつもアドバイスするのは、史料や先行研究が言っていることを。具体的に目の前で演じられているようにイメージしてみようということである。
今思いついた表現で言い換えれば、その出来事なら出来事を劇や映画にするためには、何がわからないといけないか考えてみよう、ということでもある。

今日の発表の例で言うと、中国の江南から大都(北京)への米輸送の話があった。そのどこを具体的に検討すべきかを絞り込む前提として私がアドバイスしたのは、年ごとに何万石輸送されたとかいうデータを出すのなら1石というのは(容積単位だから重量は一定しないが)だいたい何キログラムに相当するか、そして人は1人で1年にどのくらいの米を食べるものかと調べてみようということである。それをしないと、たとえば100万石輸送するというのがどのぐらいの意味をもつのかがわからないだろう(もちろん全部の米が被支給者によって消費されるわけではなかろうが)。

 *これをご覧の教員・研究者や院生の皆さん、「米を主食にする人々」は1人で1年に何キロぐらい食べるか、日本人は40年前を現在にそれぞれ、1人1年何キロ食べているか、ご存じですか。知っているとこういう話題のとき役に立ちます。

また、運搬に動員された兵士の過重負担といった話題も出ていたので、これについてはどういう世帯からどういう人員が動員されていたのか調べようというアドバイスがあった。

もう1件、清代の地方でもともとの住民と移民が科挙(それにつながる学校の試験)の受験資格・合格者枠をめぐって争うという話があった。取り上げられた地方では、ある時期には移民と原籍にある者に別々の試験問題を課す規定になっていたというので、私は「それはどちらが難しかったのだ」と尋ねた。

また、原籍にある住民と移住民が争う状況をイメージするのに、「公立の受験名門校に学区外から越境受験者が押し寄せたらどうなるか」考えてみようとアドバイスした。

知っている人にはなんということのない問いばかりだが、研究という作業の入り口に立ったばかりの日本の学部生は--「覚える」能力は優秀であっても--こういう問いが自分では立てられないのが普通である(発表に対する質疑というのは問いを立てる練習の手助けでもある)。

漢文や英語のトレーニングも楽ではないが、こういう「問いを立てる能力」、そして立てられた問いに自分が持っている知識や常識で説明を与える能力(知識が本当になければ調べ考える能力)の訓練も、大事なことである。

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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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