世界史・日本史Bの用語削減プロジェクト

何十年ぶりかで三浦海岸に行ってきた。昔は海水浴にものすごい人が押し寄せた場所だが、ほかのシーズンも首都圏から手近なリゾートとしてけっこう賑わっているようだ。上天気で、富士山や浦賀水道の眺めが楽しめた。
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遊びに行ったわけではなく、学術会議の高校歴史教育の提言をまとめられた油井大三郎先生が、三菱財団の助成で進められている高校歴史教育の内容精選に関する研究会を、泊まり込みでやったのである。通常の研究会は東京女子大で開いており、2月の回は大雪で大変だった。今回出席したメンバーは9人、大学・高校教員がほぼ半々である。

このプロジェクトではこれまでに、現行の主要教科書に掲載されている用語をリストアップして地域や時代ごとに分類する作業と並行して、高校だけでなく小学校から大学までの歴史教育の現況、欧米や韓国の高校歴史教育の内容などについて色々な報告を聞いてきたが、三菱財団の助成が終わる今年の秋には報告書を出さねばならないので、今回からその下案尽く類に着手した。そこでは、世界史B・日本史Bの教科書で使う「用語」を大幅に減らすモデルを提示しようということで、今回は用語リストそのものの削減案と、削減した用語だけで教科書が書けるし考えさせる問題が作れるといういくつかのモデルプランの提示などについて議論した。

教科書本文が、「用語集頻度」の高い基本語句だけで十分書ける(そのほうが語句の羅列にならずに理解に必要な説明ができるし、考えさせる問いかけなどもできる)点はあまり異論が出なかったが、色々な意見が出たのは、ミニマム用語リスト(試験はそこからしか出さないという提案とセットになる)以外の用語をどこまで教科書で書いてよいことにするかという点だった。それが皆無だと教科書ごとの個性が出しにくいし、仮にミニマムリスト自体を定期的に見直すにしても、新しい分野(現在の例で言えばジェンダーとか環境史)や新発見の成果に関する用語はほとんどリストに入らなくなってしまう(→入試にも出ない)。だからと言ってミニマムリスト以外の語句を大量に書いてよいことにすると、現行と変わらない教科書ができてしまい、ミニマムリスト外の語句を出題する大学などが出てくれば、結局すべてば元の木阿弥になる。バランスが難しい。

もうひとつ、日本史の場合は対外関係史とかジェンダー史、環境史などいくつかの従来マイナーだった分野に配慮すれば、大筋は「用語集頻度の低い語句を削る」ことでミニマムリストが作れるのだが、世界史は機械的に「用語集頻度の高い」語句を残したりしたら、それこそヨーロッパ中心史観を拡大再生産することになってしまうから、分野や地域ごとの方針を決めないと削減案が作れない。時代と地域で言えば19世紀のヨーロッパ、領域やテーマで言えば文化史の作品名とか政治・外交史の条約名と内容など、「書けば現行教科書のようになるし、書かないと決めれば大幅に減らせる」という部分の判断が大事になる。

高校・大学双方の教員が強く心配するであろう「そんなに語句を減らしたら論述はともかく穴埋めやマークシートの問題が作れなくなる」という懸念ないし誤解を説く仕事(たとえば作問例の提示)などは、このプロジェクトとは別にやらねばならない部分が大きそうである。



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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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