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東南アジア史の大河ドラマ

院入試の間を縫って、「アジア史学基礎C」の採点をなんとか終了(追加レポートを命じなければならない学生が若干名出たが)。
くだんの「東南アジア史で大河ドラマ」は、6名がプランを出した。それぞれのテーマは

・阿倍仲麻呂とベトナム
・ベトナムの元寇(モンゴルとの混血児を主人公にする)
・鄭和艦隊と東南アジア各地の動き
・ポルトガル人で占領直後のマラッカに来て『東方諸国記』を書いたトメ・ピレスの人生と見聞
・マラッカ王国の繁栄と滅亡・鄭成功の東南アジア貿易
・鄭成功の東南アジア貿易

東南アジア側を主体にするという点が弱い答案が多かったが、それぞれグローバルに展開する面白いドラマができそうなテーマだ。

私のイチオシのテーマだが、授業ですっとばしたために残念ながらプランが出なかったのは、タイソン戦争を扱うものである(高校の授業でも阮福英やピニョーは教科書に出てくるから、それなりに面白い話ができるはずだ)。

まず、「ベトナムのナポレオン」とも呼ばれたグエン・フエ(阮恵)などタイソン三兄弟やその武将たち(末期に阮福英軍と戦って最期を遂げる女将軍ブイ・ティ・スアンなどもいる)の、壮烈な戦闘シーン満載である。清軍を破ったゴックホイ・ドンダーの戦い、シャム軍を撃退したラックガム・ソアイムットの戦いなどの栄光と、延慶城攻防戦、帰仁城攻防戦など追い詰められていく時期の血みどろの戦闘など、大迫力で見せたい。

ベトナム戦争と同様、チュオンソン山脈~タイグエン(中部高原)での戦闘や、山地民の帰趨が大事な意味をもった。当時の史料には「上道」という言葉が出てくる。
写真はジャライ省の、タイソン三兄弟の長兄グエン・ニャック(阮岳)が若い頃にジャライ族の首長の娘を妻にして拠点にしたという伝承を持つ山間の地と、「タイソン上道博物館」
DSC_6432.jpg DSC_6493西山上道博物館

阮福英がタイソンに追われてシャム湾を逃げ惑うところ、バンコクに亡命してシャム王ラーマ1世(アユタヤを滅ぼしたビルマ軍を撃退した英雄タークシンから王位を奪った男である)に臣従しビルマ軍と戦う話なども興味深い。サイゴンに舞い戻ったあとの阮福英政権の様子を目撃した日本人漂流民も、たしかいたはずだ。

阮福英の長子カインを伴ってルイ16世の宮廷に赴き阮福英支援の命令を引き出す話、それがフランス革命などでパーになったためポンディシェリーなどで自分で集めた義勇軍(阮福英の勝利後に、貴族に列せられてフエに住み着いた2人のフランス指揮官もいた)とともにベトナムに舞い戻る話などは比較的有名だろう。背景として、そもそもなぜピニョーがベトナムにいたかという、ベトナムへの伝道と各宣教会の縄張り争いの話も、最近いい研究が出ている。
黎朝最後の皇帝の亡命を受けて出兵を命じた乾隆帝、清軍敗北を取り繕うためにグエン・フエの偽物を北京に「謝罪」に行かせ高齢の乾隆帝をなだめてグエン・フエを冊封させた満洲人福康安以下の清朝軍人・官僚など、清朝側の動きも見逃せない。

インドシナ半島と南シナ海の諸勢力も、二つに分かれて争った。阮福英を助けたのはピニョー軍団だけではない。双方が華僑の頭目や中国人海賊集団と手を結んだ(乾隆末年から嘉慶年間は、広東などで海賊が大暴れする時期である)。また、タイソン反乱の時期に没落したのは黎朝・鄭氏やフエの阮氏(広南阮氏)だけではない。主因はシャムの出兵だが、名目上カンボジアや広南阮氏に服属しつつメコンデルタ西辺の港市ハーティエンに独自の勢力を築いていたマク(鄚)氏も没落した。

カンボジア・ラオスも2つに割れた。広南阮氏に追い詰められていたチャンパー(パーンドゥランガ)の一部はタイソンに賭けた。タイソン戦争はベトナムの内戦というより「インドシナ戦争」になった。
最後は嘉慶帝が海賊問題を理由にタイソン朝を見放したことなどで、タイソン側は孤立してゆく。ゴー(呉)氏、ファン(潘)氏など有名な文人一族でも、それに殉じた人々がいた。

こういうグローバル・リージョナル・ナショナル・ローカルな動きが入り組む中で、タイソン戦争は展開したのだ。面白くないわけがない。






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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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