ゆとり京大生の大学論

土日で読んだ本。
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京大の教養課程を英語中心に変える、教諭課程を担当していた総合人間学部をつぶす、などの総長決定に対して反対運動が起こっているという話が少し前に話題になったが、そのときに教養教育に関心をもった総合人間学部の学生や出身院生が集まって、ノーベル賞の益川敏英先生はじめ教員や企業人にインタビューしたり、自分たちで座談会を開いてつくった本である。

教員の話は、「教養」の意味を一面的にしかとらえていないものや、昔の京大はよかった式の話もあり、教養教育をめぐる問題の全体を見ている人はやっぱり少ないことがわかる。高校は今でも決まった答えを教えるだけで履修科目も選べないかのような、古い理解も散見する。

しかし、自然科学の世界もカオスとフラクタルに満ちており、法則性と効率性で理解できるのは一部分にすぎないから体系化されない「教養」が必要なのだと説く酒井敏教授(地球流体力学)などは十分面白いし、菅原和孝教授は、今の若者にそのいささか大時代的な物言いが受けるかどうか多少の疑問はあるが、人類学者らしい冴えた文章を書いている。
曰く、

 大学とは、民衆から「思考の専門家」であることを委託された人びとの集う空間である。。。二種類の単純な命題を例に挙げよう。
 
 ①人類の祖先は、200万年以上の間、狩猟採集によって生存の糧を得てきた。1万年前に農耕が発明されてから社会進化が加速し、ビッグマン制、首長制、古代国家、封建制、絶対君主制といった歴史段階を経て、ついには近代のシステムが全地球を覆い尽くした。
 ②運転中の原発の内部に蓄積されるプルトニウム239の半減期は、2万4千年である。
 
 ①と②はともに、だれにでも接近できる知識である。だが、農耕の成立から現代に至るまでの人類史と同じ長さの時間が経ってもプルトニウムは放射能を発し続けるという事実に慄然とすることこそが想像力の賜物である。さらに、そのような致命的な毒物を何万年も先の子孫に押しつけるなどということは、根本的に反倫理的な選択である。。。社会がこの帰結を選ばないのであれば、その社会を変えねばならない。右のような思考過程こそが、批判力の行使である。。。

また曰く、

 自らが認識の徒として生きることを決意したあなたが参入する社会空間は、<修道院>と<戦場>という二つの相貌をもつ。

 。。。だが、あるとき、わたしは理系の研究者たちと酒を飲んでいて、会話の相手が科学哲学のイロハである「パラダイム」という概念を知らないことを発見し仰天した。すると彼女の配偶者が弁護した。「ぼくらは世界の最先端で研究成果を一刻も早く英語論文にすべく闘っているんだから、専門外の本を読んでいる暇なんかないんだ!」 このとき、かれらは、自分たちの属する部隊がなんのために闘っているのかを問うことのない兵士へと自らを疎外するのである。真に豊かな教養とは、こうした疎外を断ち切るものであるはずだ。

「修道院」かつ「戦場」、「自分の部隊がなんのために闘っているかを問わない兵士」などの比喩は、私がもっていたイメージや問題意識にぴったりである。

学生の対談が、あとから手を加えてはいるだろうが、エリート型→マス型を通り越してユニバーサル・アクセス型(要するに全入時代に学力からなにからすべてバラバラな学生が入学する状況)になっている大学の現状に即して、バランスよく考えているので感心した。
(1)専門教育の先にやったほうがいいものがあり、教養教育にあとから(色々な専門性を身につけた人間がいるところで)受けたほうが実りがあるものがあること、
(2)学生のバラバラ度が大きい状況に対して、最初に共通の枠組みをつくる役割をになう教養教育が必要なこと、
(3)現在の状況では、「役に立つ」教育を中心にしたうえで、そこからはみ出すものが不可欠であることを納得させるような枠組みが適切である、

など、阪大での議論や実践にかかわる論点もいろいろ出ていた。

やっぱり京大生には、そこらの京大教授よりカシコイやつがたくさんいる?
もっとも母校である京大には、そういう現実を踏まえた思考などクソ食らえだ、京大は古き良き大学生活を守るんだ、「99人の廃人と1人の天才」でいいじゃないか、というツッパリを貫いてほしい気がするのも事実だが。

 



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ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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