海域史の新刊

海域アジア史の専門家には、もう読まれた方が多いだろう。
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目次は以下の通り。一見して魅力的なテーマが並ぶ。

序論-「交易と紛争の時代」の東アジア海域-(中島楽章)
ムラカ王国の勃興-15世紀初頭のムラユ海域をめぐる国際関係-(山崎岳)
1540年代の東アジア海域と西欧式火器-朝鮮・双嶼・薩摩-(中島楽章)
堺商人日比屋と16世紀半ばの対外貿易(岡本真)
ドイツ・ポルトガルに現存する戦国大名絵画史料(鹿毛敏夫)
16~17世紀のポルトガル人によるアジア奴隷貿易(ルシオ・デ・ソウザ。小澤一郎・岡美穂子訳)
近世初期東アジア海域における情報伝達と言説生成-1665年オランダ船普陀山襲撃事件を中心に-(藤田明良)
清朝の台湾征服とオランダ東インド会社-施琅の「台湾返還」密議をめぐって-(鄭維中。郭陽訳)
ポルトガル人のアジア交易ネットワークとアユタヤ(岡美穂子)

「東アジア」はもちろん東北アジアから東南アジアまでの海域を含む。
初期の海域アジア史研究会に学部生で来て「東南アジアをやりたい」と言っていた山崎岳さんが、本格的に東南アジア史に乗り出してきた。これはすばらしいことだが、同時に「東南アジア地域研究」の側でその歴史の「華」であるマラッカ(ムラカ)について、本格的な地域研究の専門家がいないという弱点--その問題は2001年の岩波講座東南アジア史ですでに露呈されていた--を示してもいる。
冒頭で研究史を紹介した部分(37ページ)の「これら東南アジア史研究者による論考は、主として現地語史料および欧文文献を有効に活用し、海洋世界の論理からムラカの勃興をとらえようとする点にその強みがあるが、単極的な中国中心史観への警戒からか、中国についてはあえて考察の対象から外そうとする傾向が否めない」という山崎さんの指摘は、まことに耳が痛い。

だからといって、中国史の側から海域に乗り出していく研究者にすべてを委ねたのでは、それこそ「単極的な中国中心史観」に戻りかねない。考古学の成果の利用も含め、現地語に通じた地域研究者の役割は不可欠である。それに取り組む若手研究者が、東大や京大から今後も出ないのであれば、阪大や広大で養成しなければなるまい。


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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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