100件目の記事

今夜のマリーンズはライオンズ戦でふらふらの勝利。9回2死満塁で藪田が上本に打たれた打球は、完全に逆転満塁ホームランかと思ったが、風で押し戻されたライトフライでホッ。

週刊東洋経済が鉄道特集を組んでおり、震災と節電の影響、鉄道車両メーカーと輸出の話など面白い記事が多いのだが、そのなかにLRT(通常の通勤鉄道より小型で主に路面を走るが、郊外などでは道路上でなく専用軌道も走る「軽快電車」)の記事があった。日本のあちこちに建設計画があるが、富山市以外ではちっとも実現しない理由が、建設費の高さなどから分析されている。

私が問題にしたいのは、一部のマニアを除いて市民やマスコミがLRTの建設に消極的なことである。多くの場合、市民やジャーナリストはLRTの知識をもたず(欧米やアジア新興国の都市では、地下鉄を建設するほど交通需要がないがバスでは運びきれないような場所で、LRTの建設が常識になっている)、古い「チンチン電車」のイメージを思い浮かべる。キロ当たり建設費がLRTの5倍はかかる地下鉄、路面電車より新しいイメージのあるモノレールや新交通システムだと、市民もけっこううれしがって多額の税金をつぎ込むことを認めてしまうのだが、LRTだとそれらの大部分と比べて建設費が安いにもかかわらず、自動車交通の邪魔、などと否定的な反応しか見せない。

たぶん一般市民が「路面電車」と聞いて思い浮かべるのは、こういう感じだろう
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実際のLRTは、車両面では日本でもかなり導入が進んでおり、たとえば広島ではこういう電車が縦横に走っている。
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市民やマスコミの変化を阻んでいるのは(もちろん自動車業界や道路建設業界の政治力という問題は大きいが)、歴史教育について何度も何度も書いてきたのと同じ、「高度成長期の常識から抜け出られない」思考回路である。マイカー中心の交通システムをつくることが進歩であると、教室でも徹底的なすり込みが行われた。それを「邪魔する」路面電車は時代遅れにほかならなかった。エネルギーをめぐる状況が根本的に変わったのに、高速道路無料化が支持を受けるなどというのも、人々がいかにこの古い常識に縛られているかを示している。欧米の都市ではすでに、建設費はもちろん直接の営業収支が黒字にならなくても、環境負荷の軽減などを総合的に考えてプラスであれば、税金を使ってLRTを建設することが常識になっている。
※電車は電気を食うから節電に逆行するなどと馬鹿なことを言ってはいけない。東京電力で電力消費量のうち鉄道はわずか2%だと、上記の週刊東洋経済に書いてある(だがら、鉄道を間引き運転させてもたいした節電効果はない!)。

なお、日本の場合、車両が変わってもスピードの遅さはいっしょではないか、と思う人が多いだろう。だがそれは、LRTのせいではなく、自動車を優先して軌道敷内にも入れるようにしたり、道路信号を電車側に不便にしている交通政策と、昔の性能に合わせて路面電車の速度を自動車より低い40kmに制限している古い法律のせいである。専用軌道区間なら80km走行できるLRTが、技術的には簡単に造れるので、政策や法律を欧米並みに改めれば、道路上でも一定のスピードアップは容易である。。また日本では路面電車は1編成35m以内と長さが制限されているため、1編成当たりの輸送力が地下鉄より大幅に小さなものにしかならないが、欧米ではその2倍ぐらいの編成は珍しくない。気取って地下鉄を造ったが4両編成(1両20mとして80m)で空気を運んでいるような路線が大阪にはあるが、それならLRTにすればよかったのだ。

もうひとつ、地下鉄(やモノレール、新交通システム)は路面電車より速いと誰もが考えるが、それは実際に人の移動時間を短縮しているだろうか。
(例題)ある大都市の中心の直線道路をLRTと地下鉄が走っている。LRTの電停は400mおき、地下鉄の駅は1kmおきにある。運転間隔はLRTが3分、地下鉄は6分である。表定速度(ある列車が走る距離を所要時間で割って1時間当たりに直した数値)はLRTが15km/h、地下鉄が30km/hである。なお、路面電車の電停は歩道から信号を渡って15秒で到達する構造になっており、信号の平均待ち時間は45秒である。他方、地下鉄のホームは地下2Fにあり、歩道から降りて到達するのに2分かかる。この条件で、道路脇に家を買った人(電停・地下鉄駅までの距離はまったく考えずに買った)が、同じ道路沿いの5km離れたオフィスに通勤するには、LRTと地下鉄のどちらが速いか? この人は普通の道では時速4kmで歩くものとして計算せよ。

(答え)この人の家から最寄りの電停までの距離は0~200m、平均すれば100mである、他方、最寄りの地下鉄駅までの距離は0~500m、平均すれば250mである。この平均値を取った場合、LRT利用だと、自宅から100m歩いて電車に乗り、4.8km行って下車、そこから再度100m歩いてオフィスに着く。標準所要時間は徒歩1.5分+信号を渡って電停に着く時間1分+列車待ち時間1.5分+乗車時間19.2分+信号を渡って歩道に着く時間1分+徒歩1.5分=25.7分。

ところが地下鉄の場合、250m歩いて駅に着くのだとすると、そこから1km間隔で設置されている駅を4駅行ったのでは、下車後に750m歩かなければならなくなるので、運賃を考えなければ、5駅行って250m戻る方が速い。しかしそれでも標準所要時間は、徒歩3分45秒+ホームに降りる時間2分+列車待ち時間3分+乗車時間10分+地上に上がる時間2分+徒歩3分45秒=24分30秒。思ったより差がないことがわかるだろう(地下鉄の駅前に家があった場合は17分に短縮され、LRTの駅前に家があってもやはり25.7分かかるのよりだいぶん速くなるが)。最近の地下鉄はおそろしく深いところを走っている路線が多いから、建設費と運賃のことは考えないとしても、LRTに比べた時間面の有利さはさらに小さくなっている。

ではバス(+マイカー・タクシー)で良いかと言えば、ガソリンで走る現在のバスはエネルギーと排気ガスの問題がクリヤできていないし、輸送力がLRTより小さい、渋滞に弱いなどの問題はバスには解決不可能であるから、中規模の都市の中心部、大都市周辺の通勤輸送量の比較的大きな地区などでは、LRTと比べて便利さがぐっと落ちる。

震災後の日本は高度成長期の常識のままではやっていけないことを、「総論」としてはだれもが認めるだろう。
それならこういう「各論」に降りていこう。それは、歴史で「世界システム」や「社会史」を認めるのと同じレベルのことがらである。

3月に始めたブログの記事がこれで100件目。おおぜいの方に読んでいただき、感謝しています。
だんだん更新頻度が落ちていて、このあとも予定がたくさんあるのですが、極端に間があかないようにがんばらなくっちゃ。
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プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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