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タンロン遺跡の八角形建築遺構の比定

今日届いたベトナムの雑誌『考古学』2019年6号。ハー・ヴァン・タン先生の追悼記事(トン・チュン・チンさん)、タンロン遺跡C区で見つかった李朝の八角形建物のファム・レー・フイさんたちによる考証(文献に見える建物名への比定がついに実現した!)、雲南との国境に近いハーザン省の寺院遺跡に見られるチャム的要素など、必読の論文が何本も載っている。卒論修論D論の合間に急いで読まねば。
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センター入試の「出題ミス」

センター世界史の「出題ミス」。
あれは「みんなが覚えている中国の王朝名(たとえば「後漢」)はだれが付けた名前か」みたいなアクティブラーニング課題に広げる方向で解決すべきだろう。
※「歴史の公式」16番「教科書(歴史叙述)に用いられる用語には史料用語(当時のor当事者の用語)と後世の研究者の用語が混在するが、どちらか一方に統一することは不可能である。複数の観点が対立するような場合には、そこでも複数の呼び名がそれぞれ使われることがある。それらの場合にどの用語・呼称を選ぶかには、執筆者の歴史観が反映する(例:「大東亜戦争」「太平洋戦争」「アジア太平洋戦争」のどれを使うか)」に当てはまる例である。

ちなみに宋までの中国王朝は、始祖の即位前の封地などの「旧国名」(中国の場合はたいてい春秋戦国期の)を王朝名にしている。したがって、時代などの限定をしないと間違われるおそれがあると言い始めたら、唐や宋も限定無しでは出題できなくなるのだ(しかしたとえば時代で限定すると、唐や宋の時期を問う設問は出せなくなる)。そして、「後漢」「後周」「北魏」「南唐」などはすべて、後世の学者(たとえば正史編纂者)が付けた名前であって、その王朝自体はすべて「漢」「周」「魏」「唐」を名乗っている(例外はそういう教養がなかったヌルハチの「後金」)。こういう「中国史の基礎知識」無しで今回の問題にツッコミを入れるのは、無教養のそしりを免れない。

それより深刻なのは、その選択肢を含んだ小問である。世界史上の文化についての大問の、パルテノン神殿を題材にした中問のなかで「制度」についての小問を出し、全くバラバラな時代・地域の制度についての選択肢を並べている。近年の世界史はこういう問題が目立つが、これは今後の教育が目ざす「使える力」に真っ向から反対する最悪の出題パターンだろう。
リード文中の固有名詞に下線を引いて、それに関係ある事項を問うならわかる(たとえば王名に下線を引き、その王の事蹟を問う)。関連事項を思い出す能力は大事である。
しかしリード文中で文のテーマとは無関係な「都市」だの「政策」だのいう普通名詞に下線を引いて古今東西なんでもありの選択肢を並べるのは、「世界史で覚えた全ての用語(3000? 4000?)を自由に思い出す能力」を問う以外の意味が見いだせない。そして、そういう能力が大学での学びや市民・国民の生活に、また専門家の研究にも必要だとは思えない。そういう出題を余儀なくされるテクニカルな事情は知っているし、私の立場上、(日本社会では)あまり敵を作るような発言はすべきでないとわかっているが、こういう出題だけはしたくない。

今回の世界史問題全体は、上の意味で深刻である。新指導要領への強烈な皮肉だろうか。「概念が大事」といってきた私も、この事態の責任を取って出家でもすべきだろうか。
各中問にことごとく普通名詞(概念)に下線を引いた出題が含まれているのは、多分「事実用語の削減」「概念重視」を意識したものだろう。しかし方向が真逆だ。
今年の出題はその普通名詞や概念(そもそも下線○○に関連して××について、とかいってずいぶん下線の語とは違った話を聞く問題がいくつもある)について、関連する事実を(古今東西すべての暗記事項の中から)尋ねるものばかりである。「概念のもとになった事例を思い出す」能力はたしかに必要だが、その多くはスマホで代替できる。もっと必要なのは、プレテストで複数あったような概念そのものの理解を問う設問である。それは現状では「教員がわかっていない」から出題しにくいのだが、普通に教えれば普通に答えられるものも少なくない。「荘園制」「幕藩制」など日本史固有の概念の多数はそうして教えられている(ただし日本史は「国民国家」など歴史の一般概念を完全無視している点が大問題)。高校・大学双方で「概念恐怖症」をなくすための、歴史というよりもっと広い「科学論」みたいな基礎教養の教育が求められるゆえんである。

センター入試には各科目の出題内容以外にも私の精神が耐えられないことがらが複数あって、監督などしているとすごく精神状態が悪くなるのだが、世界史のこのタイプの出題も、私にはダメージが大きい。

もうひとこと。今回の「魏」の問題がミスだと認められるということは、歴史においては学界の常識よりも教科書記述の有無や内容の方が正解、不正解の基準として優先されるという奇怪な事態である。そこでは、一度教科書(某社の)に載った記述は、いくら専門家が新しい知見にもとづいて訂正しようとしても、その分野の専門性を持たない人々(やその分野の専門家だが教科書や入試問題の作り方を分かってない人々)によって拒否されることがままある。けだし、理系の人々にそんな科目は役に立たないから潰せと言われても自業自得でないだろうか。

東南アジア学会中部例会のお知らせ

第262回中部例会を下記の要領で開催いたします。
事前申し込みは不要となっておりますので、皆様奮ってご参加ください。

発表者:泉川 普(元愛知県立大学客員共同研究員)
タイトル:「蘭印の対日輸入貿易とオランダ企業―戦間期を中心に―」
日時:2月1日(土)、14:30~17:00(開場14:00)
会場:愛知県立大学サテライトキャンパス
https://www.aichi-pu.ac.jp/about/access/index.html

問い合わせ先:矢野順子(愛知県立大学)jnkyano[at]for.aichi-pu.ac.jp([at]を@に替えてお送りください)

なお、開催校施設管理の関係により、一部の学会員の皆様にお知らせしておりました日程よりも1週間早まり、1月例会との開催間隔が短くなってしまいました。
皆様には多大なるご迷惑をおかけすることになり、心よりお詫び申し上げます。
なるべく多くの方の参加をお待ちしております。
何卒よろしくお願い申し上げます。

大阪大学歴史教育研究会第126回例会のご案内:歴史教育における「問い」

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
阪大歴教研の新年の例会は新しい教育における「問い」の意味と作り方を、「豪華二大スター共演」という感じで報告していただきます。ふるってご参加ください。

【大阪大学歴史教育研究会 第126回例会】
 日時:2020年1月25日(土) 13:30~17:30
 会場:大阪大学豊中キャンパス文学研究科本館2階大会議室 地図
※通常の例会とは開催週が異なります。ご注意ください。

【1】佐藤浩章(大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部准教授)
「探究学習における問いの意義と問いづくりの方法」

(要旨)文科省の学習指導要領解説において、探求学習のプロセスは「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」とされている。しかしながら、これは課題解決学習(Problem-Based Learning)のプロセスであり、探究学習(Inquiry-Based Learning)とは異なるように思われる。探究学習のプロセスに不可欠なのは「問いづくり」である。本報告では「リサーチ・クエスチョン」の立て方の指導方法を紹介すると同時に一部体験をしてもらう。また、関連する用語の整理もあわせて行う。


【2】皆川雅樹(産業能率大学経営学部准教授)
「歴史教育における「問い」のポテンシャル」

(要旨)高等学校の次期学習指導要領における歴史科目では、生徒による「問い」の設定が明示されている。歴史教育における「問い」とは?そもそも「歴史教育」とは?これらを改めて考える契機として、2019年末に前川修一氏・梨子田喬氏との共編著で『歴史教育「再」入門』(清水書院)を刊行した。今回の報告では、これまでの「アクティブ(・)ラーニングブーム」について振り返りつつ、これからの歴史教育の立ち位置について、「問い」の設定を中心に、現段階での私見の提示を試みたい。



*出張依頼書等が必要な方は、その旨ご連絡ください。その際、併せて文書の宛名と送付先をご教示いただければ幸いです。
*今後の大阪大学歴史教育研究会からの案内送信が不要な方は、折り返しお知らせください。

それでは研究会にて皆様とお会いできますことを楽しみにしております。




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大阪大学歴史教育研究会事務局
E-mail: rekikyoken(at)gmail.com
HP: https://sites.google.com/site/ourekikyo/
プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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