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天空を翔る歴史学者

黒田明伸さんから『貨幣システムの世界史』の増補版が送られてきた。
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補章として「東アジア貨幣史のなかの中世日本」が掲載されている。

「増補新版あとがき」がカッコイイ。
何年か前の年賀状に「当分日本語では書きません」と宣言されていたが、その後の英語での発信による世界での活躍の経過が紹介されている。理論経済学、グローバルヒストリーなど多方面での問題提起、アメリカ、ヨーロッパや韓国・中国など各地での受け入れられ方(当然、古い枠組みによる諸分野の学者の猛烈な反発も受ける)など、だれか詳しいレビューを書いてくれないかな。ご本人の著作はともかく関連する研究や、黒田さんがオーガナイズした多数の共同研究の参加者の著作などを網羅的に読む能力がない私などは、ついそう考えてしまう。

東文研(東大の東洋文化研究所)の教員で対象地域外の世界の学界に広く知られた例として濱下武志先生が思い出されるが、そういうことがやりやすい経済理論の部分が大きいとはいえ、東洋史や東洋学の枠を軽々と飛び越えた黒田さんの活躍も見事なものだ。最初の英語論文はわざと紅海地域のマリアテレジア銀貨を取り上げてアフリカ研究者の関心を集めたというあたりの、戦略性もみごとだ。

黒田さんは大学時代、私の2級下だった。将棋にたとえればいっしょに奨励会で勉強したわけだが、今やその業績には天と地ほどの差が付いた。黒田さんのわくわくする研究には賛嘆の気持でいっぱいなのだが、それじゃあお前は全然口惜しくないかと聞かれると、実はそうでもない。そのへんは、加藤一二三に対する芹沢博文、羽生善治に対する先崎学の気分とちょっぴり似ているかもしれないなどと、ときどき考える。芹沢や先崎はタイトルを取ることでなく観戦記・解説で名をなしたが、私の解説業の背景にも、共通の心情があるのかもしれない。
ただし、阪大歴史教育全体を「研究者として超一流になれない連中のやる格下の取り組み」と(外部でも内部でも)思わせるわけにはいかない。目ざすのは、相撲の北の富士や野球の野村克也のレベルである。
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JR発足(国鉄解体)から四半世紀

鉄道ジャーナル5月号
東海道・山陽新幹線の500系、JR九州のハイパーサルーン、JR西日本221系など、JRの前進面を象徴した初期の車両が特集されている。
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しかし、後ろの方に出ている曽根悟「揺らいでいる鉄道輸送の信頼性を取りもどすために」は深刻な実態を伝える。
著者は本誌の常連で、鉄道工学の専門家である。

工事のために列車を運休させるのはよくあることだが、小規模な工事で行楽シーズンの人気列車が大々的に止まるようなケースが増えている。
沿線火災や雪などの自然災害でも、ダイヤの混乱が広範囲に長時間続いてなかなか復旧しない。
統計的にも30分以上の遅れや運休を対象とする「輸送障害」が年々増えているのだそうだ。

雪といえば、2月の大雪の際に同僚が横浜線で長時間閉じ込められたという話を聞いた。現場の状況は知らないが、頻繁運転の大都市通勤路線で「長時間ストップ」はまだしも「長時間車内に閉じ込められる」というのは理解に苦しむ。

要するに仕事のノウハウも社会的常識も継承されていない、したがって「ヘタクソな措置」「非常識な対応」がまかり通る。大学も含めて日本中でおこっていることが、JRにもおこっているということではないか。JR北海道だけが異常なのではない。
こういう状況の背後に、1970年代から営々と進められた、新自由主義的な方向への流れがある。「民営化の代表的な成功例JR」という宣伝は、日本社会をそちらの方向に転換させるうえで、ずいぶん影響力を発揮した。それ以前の社会に戻せなどと言っても意味はないが、こういう民営化神話を信じたままでは、JRも日本社会も、危機を脱することはできまい。

同志社大学グローバル地域文化学会の雑誌

昨年12月の講演の記録が掲載された雑誌が、向君から送られてきた。
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聴衆のコメントを紹介・分析した向君の文章が面白い。

外国語系・国際系が地域への視野とグローバルな視野、現代的関心と歴史への関心をどう両立させるかという、(旧)大阪外大や東南アジア地域研究と共通する難題にどう立ち向かうか、という問題意識で話したのだが、その意味で、当日のコーディネートをされた小川原さんや向さんの奮闘を期待したい。

春休み

昨日が卒業式と専修の追いコン。
追いコンではカーペンターズの歌なども出て、高校の卒業のころを思い出した。
ちなみに大学の卒業式のときは、大学院入試に落ちてとりあえず聴講生になるという状態だったので、達成感より先が見えない不安感が大きかった。修士修了のときは研究方法が見えてきた感覚があったが、卒業(修了)式には出ず、事務室で証書をもらっただけだった。専攻の追いコン(謝恩会)があったかどうか、まったく記憶が無い。博士課程は単なる退学案ので、式もなにもなかった。

変則だが今日は私のゼミの送別会(打ち上げ)を開く。
優秀な修士論文を書いてベトナムにも関係ある一流企業に就職した人、これからベトナムに研究留学する人、中国に帰国する人、ポスドクでまだパーマネントの職がない人、新しく大学院に入る人、などなど状況はいろいろだが、大勢集まってくれそうだ。フエから京大に来ているクエンさんも参加できるとのこと。

教科書などの仕事はあり平日は毎日出勤なのだが、明日からほんの数日の「春休み」に入る。

鶴竜横綱昇進

大学教授の子供というので、鶴竜には以前から関心があった。
理詰めでトレーニングをする本人の頭脳と井筒部屋伝統の差し身のうまさに、力強さが加わればというのを見事に実現したのだろう。
双葉山が開いた時津風一門では鏡里・柏戸以来の横綱とか、優勝制度ができて100人目の幕内優勝力士とか、いろいろ歴史的な意味をもつ昇進だと知った。

他方、大学相撲・高校相撲上がりでない日本人力士の大関昇進というのは、今後はほとんどありえないのだろうか?

プロ野球は次の週末から。マリーンズは新人たちに大暴れしてほしい。

世界史・日本史Bの用語削減プロジェクト

何十年ぶりかで三浦海岸に行ってきた。昔は海水浴にものすごい人が押し寄せた場所だが、ほかのシーズンも首都圏から手近なリゾートとしてけっこう賑わっているようだ。上天気で、富士山や浦賀水道の眺めが楽しめた。
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遊びに行ったわけではなく、学術会議の高校歴史教育の提言をまとめられた油井大三郎先生が、三菱財団の助成で進められている高校歴史教育の内容精選に関する研究会を、泊まり込みでやったのである。通常の研究会は東京女子大で開いており、2月の回は大雪で大変だった。今回出席したメンバーは9人、大学・高校教員がほぼ半々である。

このプロジェクトではこれまでに、現行の主要教科書に掲載されている用語をリストアップして地域や時代ごとに分類する作業と並行して、高校だけでなく小学校から大学までの歴史教育の現況、欧米や韓国の高校歴史教育の内容などについて色々な報告を聞いてきたが、三菱財団の助成が終わる今年の秋には報告書を出さねばならないので、今回からその下案尽く類に着手した。そこでは、世界史B・日本史Bの教科書で使う「用語」を大幅に減らすモデルを提示しようということで、今回は用語リストそのものの削減案と、削減した用語だけで教科書が書けるし考えさせる問題が作れるといういくつかのモデルプランの提示などについて議論した。

教科書本文が、「用語集頻度」の高い基本語句だけで十分書ける(そのほうが語句の羅列にならずに理解に必要な説明ができるし、考えさせる問いかけなどもできる)点はあまり異論が出なかったが、色々な意見が出たのは、ミニマム用語リスト(試験はそこからしか出さないという提案とセットになる)以外の用語をどこまで教科書で書いてよいことにするかという点だった。それが皆無だと教科書ごとの個性が出しにくいし、仮にミニマムリスト自体を定期的に見直すにしても、新しい分野(現在の例で言えばジェンダーとか環境史)や新発見の成果に関する用語はほとんどリストに入らなくなってしまう(→入試にも出ない)。だからと言ってミニマムリスト以外の語句を大量に書いてよいことにすると、現行と変わらない教科書ができてしまい、ミニマムリスト外の語句を出題する大学などが出てくれば、結局すべてば元の木阿弥になる。バランスが難しい。

もうひとつ、日本史の場合は対外関係史とかジェンダー史、環境史などいくつかの従来マイナーだった分野に配慮すれば、大筋は「用語集頻度の低い語句を削る」ことでミニマムリストが作れるのだが、世界史は機械的に「用語集頻度の高い」語句を残したりしたら、それこそヨーロッパ中心史観を拡大再生産することになってしまうから、分野や地域ごとの方針を決めないと削減案が作れない。時代と地域で言えば19世紀のヨーロッパ、領域やテーマで言えば文化史の作品名とか政治・外交史の条約名と内容など、「書けば現行教科書のようになるし、書かないと決めれば大幅に減らせる」という部分の判断が大事になる。

高校・大学双方の教員が強く心配するであろう「そんなに語句を減らしたら論述はともかく穴埋めやマークシートの問題が作れなくなる」という懸念ないし誤解を説く仕事(たとえば作問例の提示)などは、このプロジェクトとは別にやらねばならない部分が大きそうである。



プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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