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大阪大学歴史教育研究会 第121回例会のお知らせ

若手によるきわめて興味深い、大きな話題の報告が並ぶ。

【大阪大学歴史教育研究会 第121回例会】
 日時:2019年5月11日(土)13:30~17:30
 会場:大阪大学豊中キャンパス文学研究科本館2階大会議室 地図
※通常の例会とは開催週が異なります。ご注意ください。

【1】早川尚志(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程 / 日本学術振興会特別研究員DC)
「過去の環境変動の復元における歴史学の寄与:環境史の試みの事例紹介」

(要旨)
 過去の環境の復元は同時代の歴史文献の記述の理解、更には目下人類社会が経験する環境変動のより長期的な位置付けを行う上で重要性が高い研究課題である。このような試みはしばしば年輪や氷縞コア、湖底堆積物などの科学データによって行われがちであるが、これらのデータに基づく時間分解能には一定の制限がある。また、重要な「科学データ」の中には実際には歴史的な観測記録から数値化されているものがあることも知られている。それ故、しばしば同時代史料の読解が過去の環境復元について重要な視座を与えることや、しばしば現状の理解を大きく更新しうる。そこで本報告では、主に8世紀と17世紀の環境史上の近年の転回の事例を紹介することで、過去の環境復元についての歴史学的知見の重要性、及びにその寄与の可能性について検討を行う。


【2】高木純一(日本学術振興会特別研究員SPD)
「東アジアの「近世化」と日本の村」

(要旨)
 東アジア「近世化」論とは、東アジア地域における歴史的リズムや政治・思想・文化の共有、相互影響を前提とした、一連の比較史的アプローチである。比較史という視座は、筆者のように、ともすれば近視眼に陥りがちな個別地域史の研究者にとって、自身の位置を再確認し、研究対象の特質を鮮明に認識することができるという点で有益である。しかし、東アジア「近世化」論においては、当該地域の「近代」、就中そこにおける日本の“特異性”に対する問題意識が強く、そのことは当該研究に単なる比較史にとどまらない深みを与えているが、同時に“認知のゆがみ”をももたらしているに感じられる。本報告では、とくに当該研究の起爆剤となった朝鮮史家宮嶋博史による「小農社会」論と、それをめぐる論争に改めて注目し、この点について詳しく述べてみたい。
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中村哲先生の新著

イメージ (189)

奥付を見ると1931年生まれとある。最近の原稿を集めた本。
それだけで脱帽なのだが、内容的にも「歴史総合」など新しい歴史教育に取り込むべき議論がありそうだ。

歴史学の基本的説明

FBに書いたことのまとめ直し。
S倉先生ほか理系の先生向けの説明、学部生向けの史学概論の講義、連休明けの異分野の研究者の集まりで話すことなどに関連したメモである。

・私自身はあんまりいい説明だと思わないが、科学には法則定立的科学と個性記述的科学があり歴史学は後者に属するというかつての説明も、理系向けには意味があるかな。「個性記述」だから法則的説明がないのは当たり前。問題はそこで明らかにされた事実や、因果関係・意味などの説明の蓋然性や論理性である。それが意味がないとすれば、刑事裁判で被告の犯罪の「動機」を明らかにすることなども無意味になるだろう。
・科学であることを保証するのは反証ないし検証の可能性。その点で歴史学は、実験はできないが観測はできる自然科学の一部領域と共通する。「学術論文」では、どんな資料(=観測結果)をどう解釈したかが、完全に追体験可能な形で示されていなければならない。その資料の信頼度を確認するには厳密な「資料批判」の方法論がある。これは理系が知らない?人文学の常識。
・理系のみなさんも芸術の価値をすべて客観的な指標で評価しようとは思わないだろう。人の意識や意味、価値を扱う人文学にもそれと重なる部分がある。今のところ、それはAIにできない部分だと言われている。しかしGDPを基準にしようがどうしようが、それらは社会にとって研究する必要があることがらではないか。
・理系と違い人文学では、斬新な研究成果が論文でなく本の形で公表されることがよくある。またその世界へのインパクトは、被引用件数でなく何ヵ国語に訳されたかで評価されることが少なくない。とりあえず議論の前提としてこのへんは理系に共有されているだろうか。

新元号初日

平成の終わりが偶然とはいえベトナム共和国の終わりと同じ日に来たのは、いささかの感慨がある。
ちなみにきっと何千回もしゃべっているが、私が日本古代史なそでなくベトナム史を専攻しようと決意したのは、ベトナム共和国滅亡の日(あるいはその翌日)だった。
またこれは書いたことがないが、平成の初めのイベントとして、京大から東京に移られる石井米雄・桜井由躬雄両先生を送る「奴隷の送別会」があった。たしかその二次会で酔って悪い絡み方をして、桜井さんを不機嫌にさせた。恩師へのまずい形での反逆はあのへんから始まったのだった。その平成の終わりに、2人の恩師は亡く、東南アジア史研究は危機にある。

で、連休明けの「歴史学方法論講義」(史学概論に当たるもの)は私の担当で、これもたまたま「時間と時代」について話す予定である。
しかしそこで、元号のこと自体を詳しく話すつもりはない。やるなら東アジア文明における暦法・紀年法と年号について、また「国書」がみんなが教えられて思い込んでいるような意味での「日本独自の文化・思想の表出」ではないこと、などの点に踏み込むことは十分可能なのだが。
他の教員との関係で、今回は西洋中心史観および近代をゴールとする歴史観への批判が、グローバルヒストリーやアジア史の時代区分などの、どこにどう影響しているかを、主に話さねばならない。そちらはそちらで、相も変わらぬ西洋中心史観の再生産(アジアで唯一日本だけが近代化に成功したという歴史観もその一種である)や、その裏返しのアジア特定地域中心史観を批判するうえで欠かせないトピックなのだ。

近世史フォーラム4月例会

木下光生さんがやっている研究会。日本史だけでなくいろんな人を呼んでおり、今回はうちの吉川君が報告。いつも元気な会だ。

【近世史フォーラム4月例会のご案内】(再送)
◇日時:2019年4月19日(金)18:30~20:30
◇会場:大阪市立北区民センター 第5会議室
    https://www.osakacommunity.jp/kita/access.html
◇報告:吉川和希氏
   「18~19世紀前半のベトナム北部山地における軍政と在地首長
     ―諒山地域を中心に―」
 〈参考文献〉
  吉川和希「17世紀後半における北部ベトナムの内陸交易―諒山地域を中心に―」
       (『東方学』134、2017年)
  岡田雅志「タイ族ムオン構造再考―18~19世紀後半のベトナム、ムオン・ロー盆
地社会の視点から―」
       (『東南アジア研究』50-1、2012年)
      「近世ベトナム国家の異民族観の変容と越境者―内なる化外たる儂人を
めぐって―」
       (『待兼山論叢』史学編50、2016年)
  武内房司「デオヴァンチとその周辺―シプソンチャウタイ・タイ族領主層と清仏
戦争―」
       (塚田誠之編『民族の移動と文化の動態』風響社、2003年)

グローバルヒストリーの入門書2点

山下範久さんが編んだ『教養としての世界史の学び方』を先日やっと読み始めた。やられた感の強い好著だ。こういう本(市民向けの歴史学の入門書)を前の科研の成果としてちゃんと出していれば、阪大歴史教育の科研が落とされることもなかったんじゃないかと反省。
そこで負け惜しみとして2つ悪口を書いておこう。その1。ビジネスマンの教養書のようにも書いているが、そもそもこの本が理解できる基礎教養を持っているビジネスマンが多数派だったら、日本社会はこんなにひどくなってないだろう。そういう感覚を欠いた「男性ビジネスマン(特に中年の)の価値観」が日本社会を支配し、出版企画もそういう男性に売れそうかどうかで判断する風潮が、明らかに日本をダメにしている。そもそも人口比から言って、男性ビジネスマンは国民の多数を占めていないだろう。
その2。はじめの方で山下さんが、近代ヨーロッパが作り出した強者中心の枠組みを共有したままでいくらヨーロッパ中心史観を批判してもダメだよと書いてるのに、それをやってる著者がいること。

もう1冊、3月の愛知世界史研究会等で取り上げられている(阪大歴教研も6月に著者をお招きしている)北村厚さんの『教養のグローバルヒストリー』。これは現在の高校世界史B教科書が、枠組みが古いためにみんな気づかないが、実は組み替えをすればこれだけグローバルヒストリーを踏まえて書いてあるんだよ、という本。発想が良い。
ただしドイツ史専門の著者ゆえ、個々の記述はアジア史や日本史など間違いもある。これを「だからダメだ」とやっつけるのでなく、みんなで協力して細部の不正確さを正していく方向で、この本が活用できたらすばらしい。なお著者はこの本を使った所属大学の授業で、学生に問いを作らせその出題意図まで書かせているそうだ。中学や高校で歴史の新しい教え方をする教員のトレーニングとして素晴らしい。6月の阪大の例会でその話も聞けるのが楽しみだ。
プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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