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大規模災害時の通訳の不足

たいへんな世の中になりましたね。通常のインフルエンザより毒性や感染力が低いウイルスが世界をマヒさせるとは。

さて、3.11に関連した記事で、今朝の毎日新聞(大阪本社版)16面「明日への備え」が、共同通信の各都道府県への調査結果を照会している。それによると、大規模災害が発生した際に外国人に対応する通訳・翻訳ボランティアで自治体に登録している人(全国で計約8000人が都道府県に登録している)が、「おおむね十分」と答えたのが8県、「やや不足」は16府県、「不足」は17道府県で「どちらともいえない」などが6都県、「十分」と答えた都道府県はゼロだったそうだ。

次に足りない言語を複数回答で尋ねたところ、上位5言語はベトナム語32、フィリピン語(タガログ語)13、ネパール語12、インドネシア語10、ポルトガル語8だそうだ。福島県は「英語・中国語以外」、滋賀県と佐賀県は「全言語」と答えたとのこと。ベトナム語が圧倒的にトップなのは技能実習生などが急増したせいだという説明もある。高知県は133人の登録者のうちベトナム語はゼロ、千葉県は英語が635人、中国語が116人の登録者の一方で、ベトナム語は7人、ネパール語は2人だそうだ。自治体は研修などで育成を進めるが、限界があるとの声も漏れる。兵庫県は「国などが一括してボランティアを育成し、災害時に自治体の要請に応えられる制度を確立してほしい」とした。というのが記事の結びである。その横の東京外語大の内藤稔准教授(通訳・翻訳学)のコメントでは、(1)他地域からの派遣やインターネットを介した通訳など広域的に協力できる体制の必要性、(2)司法や行政、医療、教育の知識(罹災証明書、社会福祉協議会などの言葉の翻訳も必要になる)を含み、行政文書などを用いた実践的な研修を進める必要、などが要領よく説明されている。

これらが現在のような感染症騒ぎにも当てはまることは言うまでもないだろう。

ここから先は何度となく繰り返してきたこと。政府はまず外語大のそういう言語の予算と教員・学生定員を大幅に増やすこと。日本に来る外国人だけを当てにするのは考えが甘い。専門家が少ないということは電子翻訳の水準も低いということなので、グーグル翻訳に頼ることもほとんどできない。
そして、外語大のそういう言語に「センターの点が低くて英語などメジャー言語の専攻に入れなかった学生ばかりでなく、高学力の才能ある学生がどんどん入るような仕組みを作ること」。言葉が十分出来て司法・行政や医療・教育もハイレベルな知識をもつためには、それが欠かせない。

これを実現するには、社会の側の認識を全面的に改めねばならないのだが、そういう「マイナー言語」に優秀な学生が集まらないのは社会に行き渡った「アンコンシャス・バイアス」のせいである。アンコンシャス・バイアスはみんな「自分が偏見をもっている、差別をしている」とは思わないわけだから、それを変えるのに啓蒙や説得だけでは不十分だというのが、ジェンダーや障碍者などの問題が教えるところだろう。仕組みや制度をどうするか、政府・自治体も大学も、みんな考えるべきだ。
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歴史教育を将棋・囲碁の指導にたとえると

高校教育の目標を将棋や囲碁に例えると、少なくともある部分は「アマチュア有段者を目指す」といっておかしくないと思われる。であれば「定跡」「手筋」などの定型化された考え方の助けなしで「実戦」や「実戦の棋譜の暗記」ばかりやっても駄目に決まっているのだが、高大両方の歴史教員でそれがわからない人が多い。将棋や囲碁の研修を義務づける必要があるかなw

入試について言えば、「羽生善治の得意戦法は次のどれか選べ」「以下の歴代名人の名前を正しく時代順に並べよ」「○○年度の王将戦第△局の手順を再現せよ」みたいな問題ばっかり出して、棋力のある若者が集まるだろうか。

「研究者養成」を含む大学歴史教育にも問題は多い。
・居飛車穴熊がはやれば居飛車穴熊、相懸かりがはやれば相懸かりと「みんながやっている戦法」しかやろうとせず、研究はそこでの部分的修正・精緻化をするだけで満足するプロ。
・「矢倉戦法の序盤の研究では名人にも引けを取らないが、詰め将棋のトレーニングを全然していないのでいくら序盤で有利になっても強い相手には勝てない」「おまけに腰掛け銀は木村定跡、横歩取りは沢田定跡までしか知らないのでアマチュア強豪にも勝てない」というプロ。
・マイナーな戦法や自分が不得意な戦法に出くわすと、対策を勉強するのでなくとにかく避けようとする(目下の人間がやろうとするとけなして止めさせようとする)プロ。
などに相当する人々ばかりが集まっている大学や学界で、今の時代に必要な研究や教育のためのトレーニングが有効に出来るとは思えない。

なお将棋や囲碁の「師匠」は弟子に具体的な指導はしませんが、代わりにアマチュアからトッププロまで、先輩後輩や仲間同士の鍛錬の場が切れ目なく用意されており、一芸型から万能型、トッププレイヤーからコーチや解説者まで、幅広い「プロフェッショナル」が育つように出来ています。

東南アジア学会九州地区例会のご案内

九州地区例会では、アジア政経学会定例研究会と合同で、以下のような研究会を開催いたします。ぜひ奮ってご参加ください。

**********************************
日時:2020年3月1日(日)14:30~17:20
場所:九州大学 西新プラザ(福岡市早良区西新2-16-23)
http://nishijinplaza.kyushu-u.ac.jp/index.php
http://nishijinplaza.kyushu-u.ac.jp/access.html

報告1: (14:30~15:10)
報告者:謝 帆(九州大学 大学院地球社会統合科学府 修士2年)
テーマ:文芸雑誌「摘訳」に見る中国「文革」時期の日本文学翻訳と受容
討論者:阿古 智子(東京大学)

報告2:(15:10~15:50)
報告者:李 翔宇(同志社大学 経済学研究科 博士後期課程)
テーマ:中国における経済成長の収束性に関する分析
討論者:戴 二彪(アジア成長研究所) 

~ 休憩10分 ~ (15:50~16:00)

報告3:(16:00~16:40)
報告者:劉 澤文(九州大学 大学院経済学府経済システム専攻 修士2年)
テーマ:中国企業のカンボジアにおける農地取得――バイオエタノール原料としての
キャッサバ生産の拡大
討論者:清水 一史(九州大学)

報告4:(16:40~17:20)
報告者:山口 健介(東京大学 未来ビジョンセンター 特任助教)
テーマ:タイに見る天然ガス川下産業の競争力――マレーシア、インドネシアとの
比較的見地
討論者:佐藤 百合(アジア経済研究所)

定例研究会の終了後、近くで懇親会を予定しています。ご都合のつく方は、そちらにもぜひご参加ください。

問い合わせ先:
定例研究会運営委員会 佐藤百合・阿古智子 (teikikenkyukaijaas〔@〕icloud.com)
あるいは清水一史(shimizu〔@〕econ.kyushu-u.ac.jp)
までお願いします。
(〔@〕を@に変えてお送りください)

査読付きジャーナル論文投稿セミナー

みなさま

京都大学東南アジア地域研究研究所と日本貿易振興機構アジア経済研究所の共催
で『東南アジア研究』と『アジア経済』の編集委員による下記のセミナーを開催
するはこびとなりましたのでご案内差し上げます。

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査読付きジャーナル 論文投稿セミナー
『東南アジア研究』(地域研究)と『アジア経済』(発展途上国・新興国研究)
への投稿案内
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●日時:2020年3月29日(日)13:30~17:00
●会場:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室
●プログラム:https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/2020/03/2020329/
1.『東南アジア研究』および『アジア経済』の特徴について
-藤田幸一(『東南アジア研究』編集委員長)
-川中豪(『アジア経済』編集委員長)
2.投稿時の注意点と査読プロセスについて
-小林昌之(『アジア経済』編集委員兼編集部)
-設楽成実 (『東南アジア研究』編集室 )/ 藤田幸一
3.座談会「投稿と査読の経験を語る:ディシプリンの違いを踏まえて」
 岡本正明、片岡樹 、甲山治( 『東南アジア研究』)
 橋口善浩、川上桃子( 『アジア経済』)
4.質疑応答、グループワーク/個別相談会
●参加方法:下記より要事前登録(定員40名、参加費無料)
https://edit.cseas.kyoto-u.ac.jp/submit-seminar
●主催:京都大学東南アジア地域研究研究所、日本貿易振興機構アジア経済研究所
●問い合わせ先:京都大学東南アジア地域研究研究所・編集室
 japanese-editorial [at] cseas.kyoto-u.ac.jp
([at]は@に置換)

ベトナム考古学の躍動

先日ちょっと書いて忙しいままに放っておいたベトナムの雑誌『考古学』2019年6号掲載の、タンロン遺跡で見つかった八角形建物遺構に関するファム・レー・フイさんとファム・ヴァン・チエウさんの共著論文。やっと読了。タンロン遺跡で発掘されたの宮殿名の同定(李太宗の時に建てられた天慶殿)についに成功しただけでなく、見つかった遺跡全体のプランとその変遷、それらに対する中国の都城モデル(複数形)の影響についての優れた見通しもいくつか示される。また、李朝の文献に出てくる「八角経蔵」について、中国・日本の文献・研究を引いてこれが建物ではないことを証明したところは、私も最近偶然に中国・日本の八角経蔵(要するに大蔵経などを収める八角形の巨大な回転式書架)と、その作り方を載せた宋代の『営造方式』という建築書についての博士論文を続けて読んだところだったので大いに納得。参考文献にミスや抜けが若干見られるがそれはご愛敬ということで、とにかく画期的内容。

他にもこの号には、故ハー・ヴァン・タン教授の業績に関するトン・チュン・ティンさんの論文、それに雲南省との国境に位置するハーザン省で発掘された陳朝寺院址で見つかったチャンパ系?遺物の報告、西村昌也さんも関わったクアンガイ省の沈船(唐末のチャウタン沈船と元代のビンチャウ沈船)の研究なども載り、読みどころが満載である。

連載:終わらない(就職)氷河期

毎日朝刊の連載「終わらない氷河期 疲弊する現場で」
おとといの第1回は「非常勤講師掛け持ち50歳」で高学歴ワーキングプアを取り上げる。紹介された例がフランス文学なので、いかにも理系や財界の人々が「こんな分野でそういう目に遭うのは自業自得だ」とけなしそうだが、日本が先進国でなく中進国である方を好むその手の意見は、みんながよってたかって温存してきた「技術畑以外では博士なんて雇えない」という古い企業や役所の体質に自分で手を貸していることも自覚してほしい。

昨日の第2回は、学校図書館や公共図書館の非正規職員の例。図書館も博物館もみんな職員がどんどん非正規化されてきた。背景にある安直な公務員叩き、なんでも民営化すればよくなるという幻想(⇒だったら国にとって一番大事な自衛隊を民営化しろ!!!)、そして「本が好きなら誰でもやれる」みたいな専門性への無理解(⇒一度ちゃんと分類や管理をするのがどんなに大変かやってみろや!!!)、さらにはこういう「周辺」を切り捨ててある「中核」部分のポストを守ろうとするお役所や学校の保守性(⇒守った人々が最後は「戦艦大和の護衛艦隊無しの沖縄出撃」的状態に追い込まれる)。
プロフィール

ダオ・チーラン

Author:ダオ・チーラン
ヒツジ年生まれで写真のニワトリに深い意味はない。横浜で生まれ育った関東人だが、大学入学後現在まで関西で暮らしている。
本業は歴史学者で、専門は中・近世のベトナム史、海域アジア史、歴史学の評論・解説など。
趣味はパ・リーグを中心としたスポーツ、鉄道ほか。
このブログの意見はすべて筆者個人のものであり、いかなる組織にも関係ありません。

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